3.5

何で、あの二人が別れた?

それは立海の男子テニス部、特に当人以外のレギュラーの共通意見。俺じゃって例外やなか。
我等が部長、幸村精市とその彼女が別れたという噂。俺は最初、鼻で笑った。

「無いじゃろ」
「そうですね」

柳生も当然同意する。
女の嫉妬は怖いのう。どうしてあんなにも穏やかな空気の理想の恋人達をそうも目の敵に出来るんか。
じゃから、放課後に赤也が朝から幸村の彼女に馬鹿やらかした聞いた時も頭に拳骨喰らわせた。

「な、っ痛ぇえええ!何するんスか仁王先輩?!」
「失礼極まりないんじゃ、阿呆」

頭を抱えて涙目に座り込む赤也に溜め息。お前さん、俺以上に幸村が怒るってわかっとんのか?

「失礼って俺何しました?!」
「幸村の彼女の話じゃバカ也」
「バカ也じゃないです!…それに、もう別れたんだからいいじゃないッスかー」
「…は?」

別れた?誰と誰が?
混乱する俺の腕を誰かが引いた。見ればそれは柳生で、言葉より先に手を出すとは珍しいと混乱したままじっとその顔を見る。

「どうやら本当のようですよ」
「…は?」
「にわかには信じ難いですが…幸村君自身が肯定していました」

全部聞き終わる前に走った。
クールに、誰にも自分を読ませず、いつも飄々と、ペテンをかける。そうしてきた自分が何故こうも焦っちょるのか。
答えは簡単じゃ。当たり前のように、そうであるんが必然で、あの二人は不変じゃって信じとったから。
何度となく壊れていく絆を見てきた俺が、あの二人の笑顔だけは、と無意識に――

「っ幸村…!」
「ああ、どうしたの仁王?そんなに慌てて」

嘘吐け。そんな当たり前のように嘘の表情するんじゃなか。それは、俺の専売特許じゃ。

「何で、じゃ…」
「…ああ、やっぱり皆知ってるよね噂。何でか…何でだろうね…?」

それは、誤魔化そうとしちょるいうよりホンマに幸村も解っとらんようで。

「俺は、何をしてやれる…?」
「あはは、仁王が報酬も求めずにそう言ってくるなんてね!そうだなぁ、じゃあ折角だし…」

俺は二の句も無く了承した。
報酬は、また二人のあの笑顔を見られればそれでええ。
そんな臭い台詞は、流石に吐けんかった。



俺は幸村との約束を果たすべく、幸村の彼女さんを探して学校中を歩いとった。
…俺、幸村の彼女さんの名前も知らんからのう。…今は元カノさんか。顔は解る。幸村と一緒に居るんは遠目じゃが何度も見た。
クラスも知らんしどうしたもんかと悩みながら歩いちょると、渡り廊下まで来とった。

「あ」

居った。しかも幸村と柳も。
…何じゃ、この空気。野次馬が煩いがそんなんじゃのうて――

幸村君と元カノさんがすれ違う。
幸村は柳と話しとって、元カノさんは俯いとった。
挨拶さえせんし、視線さえ合わせんかった。

なんじゃ、それ。


「ちょお」

元カノさんの進路を塞ぐ。幸村は振り返りもせず、じゃけどきっとこの会話は聞いとると知る俺は、表情は取り繕ったまま奥歯を噛み締めた。
大丈夫、幸村。約束守っちゃる。

「…何?幸村君のこと聞かれるの、もう面倒なんだけど」

そのうんざりとした顔に俺の事でもないんに胸を痛めつつ、笑う。

「…幸村のことは聞かんから、ちょっと話さんか?」

これは幸村の為でもなく、ましてや元カノさんの為でもなく、ただ単に俺の理想を守りたいゆえの俺のエゴ。
じゃけど、男テニレギュラーなら皆…俺のこの気持ち、解るじゃろ?

                


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