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「よっしーは皆に優しいんだから勘違いしないでよね。アンタなんか可哀想だから構ってもらえてるだけなんだから」
「あの三人に手出さないでよ、ヤリマンッ!」
「あずみん取らないでよーっ!」
「管野ちゃんに抱き着かれるなんて狡いっ!」

放課後。屋上まで来たはいいけど、私が一切口を開く間もなく飛ぶ暴言の山に私はどうしたものかと眉を下げた。
それにより私が暴言に弱ったとでも思ったのかまたさらに言い募るクラスメート達。一回ぐらいいいと思ったんだけどなぁ…思いの外、面倒臭い。

「だいたいねぇ!」

さっきから代表的に声を荒げてる子がさらにまた何か言おうとした時だった。

パンッ!

突如響いた大きな音に、私を含め全員が肩を跳ねらせ音のした方向を見た。


「俺のサボり場で陰湿な事、やめてもらえんかのう?」

目を見開く。何で、仁王君が此処に…?!
それは私だけが思ったわけじゃないらしく、私を囲んでいたクラスメート達も動揺したように、両掌を合わせて薄く笑みを浮かべている仁王君を見る。

「それに、他は知らんけど自分から抱き着いたんなら耀一さんが嫌がってるんはないじゃろ」
「耀一って…誰?」
「菅野耀一さん。耀一さん、嫌いな奴にはわかりやすいぜよ」

淡々と話す仁王君に、私は菅野ちゃんの赤也君への批難を思い出し、ああと納得する。

「に、仁王君には関係ないでしょ…!」
「っそうよ!」

まぁ、それは確かに。
私が心中でそれこそ当事者とは思えないようなぼんやりとした同意をしていると、仁王君は呆れた顔でクラスメート達を見る。

「耀一さんの友人じゃし、…俺にも水代さん庇う理由あるし、それに今は後輩の彼女らしいし、俺とも友人じゃ。…で、そんな子が因縁つけられとんのを庇っちゃいけないんか…?」

上手い。
確かに、なんかそう言われると庇うの当然な気さえしてくる。実際私と仁王君が友達かどうかは置いておいて。
クラスメート達は仁王君の飄々とした言い分に言葉を詰まらせ、今日の所はと明らかに不満たらたらながら屋上を出て行った。その間私には一切触れずに。

つまり私は仁王君と共に屋上に残される。

「えーっと…仁王君、ジャージの下借りてます」
「そこか」

裾を折り畳み広い穿き口を髪ゴムで縛った不格好と共に伸びてしまいそうで申し訳ない借り物を見せて言えば、仁王君はけらけらと笑った。
私は眉を下げながら仁王君から視線を外す。

「口出さないで良かったのに」
「手出せばよかったか?」
「もっとダメです。屁理屈はやめてください」

真面目な顔で言えば、仁王君は肩を竦めた。

「テニス部の騒ぎを耀一さん達が止めるんじゃったら、耀一さん達の騒ぎを治めるんは俺等なんがフェアぜよ」
「…テニス部一くくりにしてるけどいいの?」

そういうの、嫌いだと思ったけど。
私が純粋に疑問に思い問えば、仁王君は言葉に詰まったように私を見て、数秒の沈黙の後深く溜息を吐いた。

「…水代って頭いいじゃろ」
「口が上手いだけだよ」

嘘を吐くのには慣れているから。
ああ、また私汚い大人のような事考えた。ダメダメ、私はまだしばらく子供で居たいんだから。

忘れられないし、忘れたくないのだから。

                


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