15

正直、教室に着いてから色々ありすぎて忘れていた。

「さすが数学、よっしーと菅野ちゃん死んでるね。よしサララ、ご飯食べよー」
「うん。あ、私二人起こしてくるね」
「サララ優しー。じゃあ頼んだー」

安住君は動く気がないらしく、ひらひらと手を振ると自分の鞄を膝に乗せて中を漁り始めた。多分お弁当を取り出すんだろう。
…安住君、今までは当たり前のように起こしてあげてたくせに。まぁ、起こし方は頭叩いてたけど。
私はまず吉村君の所に行った。熟睡している吉村君に、よく学校のしかも授業中机で快眠出来るなと逆に感心する。私なら眠れない。

「吉村君、お昼でーす」

肩を軽く揺すりながら声を掛ける。自分の僅かに間延びした口調に、口に出して初めて自分でも気づき、既に安住君の話し方が移ってきているようで複雑な気分になった。

「…昼?」
「うん、安住君待ってるから起きて」
「何で水代さ…あ、サララ。そうでした。おはよ」
「おはよう。お昼だけどね」

まだ僅かに寝惚けているらしく、机に頬をつけたままの吉村君と少し会話した後、大体は目が覚めただろうというタイミングでその腕を引いた。

「っわわ?!」
「ほら、起きたならお昼持って安住君のとこ早く行って。私菅野君も起こさなきゃだから」
「えー、サララ意外と扱い雑」

吉村君を無理矢理立ち上がらせその背を押せば、口を尖らせ恨めしそうに見られた。
私はそれを黙殺し、菅野君の所まで向かって歩き――その途中で、教室内に声が響いた。


「水代せんぱーいっ!約束通り迎えに来ましたー!」

見覚えのある後輩が教室にある黒板側のドアの所でにこにこ笑って私を見ている。
…切原君?

私は少し固まり、それから朝の切原君の発言を思い出し脱力した。菅野君の机に向かっていた足の先を方向転換してドアに向け、歩いていく。

「切原君、私はまた昼休みにとしか聞いてないんだけど?」
「ええ?付き合い始めの恋人同士が昼休みって言ったら、普通一緒にご飯っしょ!」

当然、と言わんばかりに自信満々に返されると私も反論出来なくなった。少し悩んだ末困った顔で丁度今の場所から対角線上にある、今の自分の机の場所もとい安住君と吉村君の居る方を振り返った。

「サララ…諦めろっ!」

吉村君にイイ顔で親指を立てられた。

「はいはーい。てか、僕サララが切原と付き合ってるなんて初耳なんだけどー」
「…え?」

手を挙げて首を傾げる安住君に、私はきょとんと彼を見返した。
…安住君が、切原君と私が付き合ってるの、知らない?それっておかしくない…?だって、吉村君達三人は、切原君の友達だから私が虐められないようにする為に私と友達になったん、だよね?どういう事?

「ちょっと、水代先輩」
「っわ!…な、何」

急に切原君に肩を掴んで後ろに引かれ、無理矢理振り向かされた。私はいきなり、しかも無理矢理の方向転換に動悸がして、胸を押さえながら引きつった声と共に切原君を見た。

「彼氏の前で他の男と見つめ合うのやめてください。ほら、早く行きましょ!」
「え、あの切原君…?!」

今度は腕を掴まれ、さっさと歩き出した切原君に必然的に私も引っ張ら歩かされる。私は動揺しながらも、とにかく振り返り声を張り上げた。

「あ、安住君!ご飯一緒に食べれなくてごめん!それと、休み時間終わったら話そうね!」
「ん、りょーかい。行ってらー」

笑顔で吉村君と一緒に手を振る安住君に、細かい事気にしないと言うか、淡白だなと思いながら切原君に腕を引かれるままに歩いた。

行き先は知らない。

                


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