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吉村君と菅野君の話が一段落し、担任が結局元私の机の状態に触れないままSHRが終わろう、という時、菅野君が床と垂直になるぐらい真っ直ぐ上に、びしりと手を挙げた。

「せんせ、あの机あったら授業集中できないと思います」

吉村君の近くで席が前の方にある菅野君の表情は、現在誰より後ろの席になった私には確認出来ない。ただ、担任は狼狽えた。

「あ、ああ。それじゃあ…そうだな、水代片付けておけ」

ちょっと待て。明らかに自分でやったものじゃないってわかるだろうに、これを私に何とかしろって?!
私はさすがに傍観しているわけにもいかず何か言おうと息を吸い込んだ。

「は?」

私が何か言う前に、菅野君の嫌に低い声が教室に響き渡った。
教室内が静まり返る中、安住君がにやにやしながら振り返り、人差し指を一本自分の口にあて、私に黙っているよう指示した。

「だいたい俺は元々気に入らなかったんだよ。何?水代さん何したわけ?男が絡んだらまたアレかと思って様子見てたけど、もう無理。あり得ない」

机を思い切り叩き、バン!と大きな音を立てて菅野君は立ち上がった。幾人かが肩を跳ねらせ、担任さえ怯えるように菅野君を見る。
ただそんな中、吉村君と安住君だけは笑いを堪えるように肩を震わせていた。

「あの机を一人でどうにか出来るわけないじゃないですか。女の子一人にさせようとするって、うわぁ。もう、うわぁ…」

凄みの効いた菅野君の声に、担任は慌ててある提案をした。



「結局一限潰れて皆で掃除か。俺的に英語嫌いだからラッキー!」

吉村君がゴム手袋をつけて、元私の机に溜まった赤いペンキを嬉しそうにバケツに流し込むのを、私は複雑な気持ちで見ていた。
私が一人で処理するのも嫌だけど、これはこれで真面目に勉強したかった人達にちょっと申し訳ない。

「でも僕達がやるのって理不尽だよね。考えなしにやった馬鹿がやれよ」
「まずクラスの人じゃ無さそうだよね?」
「僕としてはそれが逆にイライラ。サララ、犯人見つけたらサララの前でも土下座させるから」
「あずみん怖い!」

安住君の怖い発言に吉村君と一緒に笑っていると、視界に影が出来た。
見上げると、金色が眩しくて目を細めた。

「ちょ、ちょーちょーちょー」
「管野ちゃんが狂った!」
「ちゃうわ!」

菅野君の勢いに思わず少し離れると、安住君が手招きしてくれたのでそれに甘えてその隣に並んだ。

「え、何君達、もうそんなに仲良くなったの?菅野は仲間外れ?」
「菅野ちゃんの遅刻賭けした仲だからな!」
「何だと、意図せず俺が仲良くなる切っ掛けを与えている」

吉村君と菅野君が話すのをぼんやりと見ていると、急に菅野君が目の前まで来て驚いた。

「よし、サララ。俺とも仲良くなろう。大丈夫、俺女の子には優しくする」

私の手を半ば無理矢理掴んで手を繋いだ予想外の菅野君の反応に、私は思わず黙って菅野君にされるがままになる。

「安住先生!菅野君がサララを襲おうとしてます!」
「菅野ちゃん言うと卑猥な意味にしか聞こえないねー」
「黙れ外野!」

三人の戯れるような掛け合いに冷静になった私は、菅野君を見上げた。本当に背高いな、中三なのに…180はありそう。

「水代紗良。よろしくね」
「お…おお、クール系?新しい」
「菅野ちゃん、サララは仲間だからな?何なの、そのやらしい視線」
「サララ此方おいで」

何故か嬉しそうに菅野君に見返された私を、安住君が庇うように自分の背中に回した。

「嘘だっつ、半分。仁王も気に入ってるらしーし、アイツと争うのやだもん。あーダッツ食いたい」
「え、仁王が気に入ってる?何で仁王?」

口を尖らせる菅野君に、吉村君が疑問符を飛ばした。
仁王君が私を気に入っているっていうのは間違った情報として、私は親しげに仁王君のことを話す菅野君に思わず口を開く。

「菅野君、仁王君と仲良いの?」
「呼び方固っ!菅野ちゃんでいいよ!もしくは耀ちゃんか耀君!」
「菅野ちゃんが名前呼ばせんのって落としたい女じゃん。マジでやめろ。そして質問に答えてやれ」

私が相手の名前を呼びたくないのをわかっている吉村君が、然り気無くフォローしてくれたのか菅野君の頭を叩いた。

「余計馬鹿になったらどうしてくれる。…仁王はまぁ、それなりに仲良し?」
「何故か菅野ちゃんは仁王に慕われてんだよー。何故か」
「貴様何者なのだ」
「小学生時代、仁王暗かったから男女共に人気な俺に憧れたんじゃない?」

あっさりと答えた菅野君の話の中の仁王君と私の知る今の仁王君が結び付かない。まぁ、私が仁王君について知ってる事なんて本当に微々たるものなんだけど。

「あー、菅野ちゃん昔から遊んでそー」
「だから仁王がああなったのか。可哀想に」
「何この人達酷い」

私は、思わず口を開いた。

「でも仁王君優しいよ」
「…ん?サララ、今何て?」

笑顔で、見るからにそれはねぇよと思っているんだろう菅野君に私は少し機嫌が悪くなった。
だって仁王君は、あの時学校内で唯一私に優しかった。それに何か意図があったとしても、私は嬉しかった。

「…」
「いや、仁王が優しいって、」
「…」
「えっと…」
「…」
「よしわかった。仁王は優しい」

無言の中視線で訴えていると、菅野君がいやに真剣な顔でぽんぽんと優しく私の頭を叩いた。


「菅野ちゃん弱ー」
「アイツ、マジでサララ気に入ってない?」

と言うか、私と赤也君が一応付き合ってるから私を護ってくれているはずなのに、どうしてそうなるのか。

私は個性豊かな三人にため息を吐いた。

                


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