13

あの後、安住君が意外にも発泡スチロールでも運んでいるような足取りで机を運んで来てくれた。それを窓際の一番後ろの席に置いた安住君は私のお礼も当然のことだと流し、時計を見る。

「こういう力仕事はいっつもは菅野ちゃんにやらせんだけどね」
「アイツが来るの待ってらんねぇもんな」

お疲れ、と吉村君と安住君は軽いハイタッチをし合った。ちなみに二人共、私の前の机に関してはスルーだ。まぁ、私も片付ける気はなかったしいいけど。

「あ!あのさ、サララ。サララって賭け事嫌い?」

急に何かを思い出したように笑顔で聞いてきた吉村君に、不思議に思いつつ首を振る。

「へー、意外。サララって思ったより砕けてる?」
「そう来なきゃな!俺等ね、毎日菅野ちゃんがSHR間に合うか賭けてんの!サララもやんない?」

興奮しながら聞いてくる吉村君と、興味ありそうに私を見てくる安住君に、私は笑みを浮かべた。

「やる」
「おおっ、マジか!ちなみに賭けるのは一回三百円な!週五でやるとこんぐらいじゃないとやってらんなくてさ」
「二人だと賭ける方被った時じゃんけんだったもんねー。じゃあ、サララどっち賭ける?」

安住君に聞かれて、少し考えた後口を開く。

「間に合わない方で」
「っあはは!サララ、意外と勝負師!この賭け、間に合う方がどうしても確率高いのに!」
「でも僕、そういうタイプのが好きだよ」
「俺もー!」

何故か好かれた。
まぁ、女の子には勝負師が少ないから物珍しい私みたいなのに興味が引かれるのかもしれない。

「じゃあ僕は来る方に賭けよっかな」
「んじゃ、俺もサララと一緒!」

楽しそうに賭け合う二人に私もにこにこしていると、吉村君は私に笑いかけ教室の時計を見た。

「ベルの一分前だし、そろそろ席座っとくか」
「だねー」

安住君が同意して戻ろうとする後ろで、私もその方向だと後ろに付いていく。そんな私達に、呼び止めるように吉村君が声を掛けた。

「てか、今のサララの席…窓際一番後ろって男の列じゃん?」
「ん。僕の後ろの席なんだよね。安全でしょ?」
「あずみんの計算格好いー!」

私がそこまで計算されていたのか、と驚いて安住君を見ると悪戯っぽく笑い返された。
私達が席に着いて間もなく、担任が教室のドアを開けた。

「おはようござ…」
「先生、元サララの机見て固まったね。教師って職業も大変だよ」

ぴきりと視線を元私の机に固定させたまま停止する担任に、安住君は何処か皮肉るように笑った。

「まぁ、そんな先生置いといてベルまで残り30秒だねー。カウントダウンする?」
「する」
「あははっ!僕サララと仲良くできそー」

迷わず即答すれば、安住君は機嫌良さそうにケラケラ笑う。

「13、12、11、10、」

安住君のカウントに、二人で教室のドアに注目しながら菅野君を待つ。いや、来ないに賭けている側としてはもちろんまだ来て欲しく無いけど。

「8、7、6、」

ドアは開かない。ついでに言うなら担任も動かない。

「4、」
「「3、2、1…」」

思わず私も声を揃えカウントダウンする。ベルが鳴った。
菅野君は……来ていない。

「私の勝ち!」
「やー、負けたー」

テンション高く手を叩くと、安住君が笑いながら項垂れた。
次いで、吉村君が笑顔で振り返りピースして来たので、私も笑顔で返す。

「…あれ、この場合どうなんだろ?二人に三百円?」
「賭けてるのが三百なんだから、百五十ずつでいいんじゃない?」
「んー、まぁそっか。でもそれだと一人の方が絶対有利だし…うん、次までにルール改竄しとくね」

安住君が自己完結したところで、教室のドアが勢いよく開いた。
私も今までこのクラスで過ごしてきた身として、開けた人の予想はすぐについた。

「せんせ、おはようございます。今日も元気に遅刻な菅野で…わああっ、なんか机!赤い!」
「菅野ちゃんナイスリアクション!ナイスボキャ貧!」

金髪を揺らしながら挨拶した菅野君は、元私の机を見るや否や、それを指さし叫んだ。
その事に、吉村君が褒めているのか貶しているのかよくわからない野次を飛ばす。

「よっしー、今日テンション高いね」
「確かにそうかも」

安住君の言葉に、そういえばと頷いた。
切原君との賭けに負けたんだし、テンション下がることはあっても上がることは無かった気がするんだけど。赤いペンキで無理矢理頭起こされたのかな…。

                


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