12

「何でバイバイ?」

笑顔のままきょとん、と聞き返してくる吉村君はマイペースで…やりづらい。

「話、終わったよね?」
「む?…あれ、水代さんもしや赤也から聞いてない?」

切原君から…?吉村君の名前を出してた覚えはない、けど。

「赤也の先輩兼友人として、これから水代さんのボディーガードする吉村達郎でーす。よろしく!」
「ああ」

にっこりと笑いながら手を差し出してきた吉村君に、私もその手を握り返す。
苛めから守ってくれるって話か。まさか此処まで接触してくるとは思わなかった。

「俺のことはよっしーかたっちゃんって呼んで!で、後クラスで言ったら遅刻魔の菅野ちゃんと、天才あずみんも仲間ね!俺等今日からパーティーだから」
「はぁ」

パーティーってやっぱりゲーム気分なのか。
男子のグループに女子一人、しかも嫌われ者で幸村君と付き合ってたと思ったら今度は切原君と付き合いだした私…。
それに、クラスの中心人物でハニーブラウンの目立つ髪色に笑顔が格好いい吉村君はもちろん、サッカー部部長の金髪に長身で女の噂が絶えない菅野君も、生徒会副会長で緩いキャラに身長も低めなのに成績常に学年トップ3な安住君も、女子からの人気がかなり高い。…切原君の友達って。頭痛い。

「あ、やっぱちょっと嫌?水代さん、目立つの嫌いそうだしねー」
「いや、それはそうでもないんだけどね」

そうじゃなきゃ、幸村君はともかく跡部君の友達はやってられないだろう。

「ただ、面倒臭そうだなって」
「?!ズバッと一直線に心刺された…っ!」
「あ、ごめん。吉村君達のことじゃなくて」

此方の問題。
実際、私はよく大人しそうに見られるみたいだけど、そうでもない。男子のグループに入るのも、私小学生の時とかは男子との方が仲良かったし馬があったぐらいだ。だから吉村君達が嫌とか、仲良く出来なさそうとか、そういうわけでは全然ない。

「よろしくね、吉村君」
「…水代さん、サララって呼んでい?」
「え、っはは!いいよ?」

たぶん、吉村君はあだ名つけるのが好きな人なんだろうと笑いながら言えば、吉村君は満足そうに頷いた。

「ってことで、俺の呼び方は?」
「吉村君」
「サララの馬鹿!絶対わかってて言ってる…!」

泣き崩れるように床に座り込んだ吉村君に笑う。

「わぁ、誰か死んだの?」

いつの間にか安住君が吉村君の後ろにいて、吉村君の肩に手を置きながら首を傾げた。言ってることは中々凄いけど。

「おはよう、あずみん!思い出させてくれてサンクス!」
「おはよー。目の前にあるこんなインパクト強いもん忘れられるなんて、さすがよっしー」

馬鹿にしているのか褒めているのか、安住君は緩く笑った。
ふと、安住君の視線が私に移る。

「水代さんもおはよー。机凄いね」
「…おはよう、安住君」

私にも自然に挨拶しているってことは、たぶん安住君にも切原君からのメールはいっているんだろう。何だか居たたまれない。

「あずみん、水代ちゃんのあだ名はサララな!」
「もうあだ名つけたの?水代さん、それ僕も呼んでだいじょぶ?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとー」

わざわざ確認してきたわりに、一応確認しておくという社交辞令は感じない。たぶん、安住君も跡部君のように人の感情の変化に敏感なんだろう。ふわふわした笑顔からはそうは見えないけど、安住君は頭がいい。
私の人への呼び方を強制されなければ、私のことは好きに呼べばいいよ。

「で、あずみん。副会長としてこの血溜まりをどう思うかね?」
「立海の恥だよねー。犯人見つけ次第処罰。じゃあ、僕サララの新しい机持ってくるから」
「え、それは嬉しいけど私のだし、自分で運ぶよ」

自然に教室を出て行こうとした安住君を慌てて止める。危ない、流れが自然過ぎてつい見送るところだった。
安住君は振り返り、私の顔を見るとあぁと小声で何かに納得したように呟いてから、私の肩に意外に大きい手を置いた。

「サララ、こういうのは男に任せておきなさい?」

ぽんぽん、と私の肩を叩いていやに真剣な顔で言う安住君に私は一瞬息を詰め、それから微笑んだ。

「…ありがとう」
「どういたしましてー。じゃ、またね」

今度こそ教室を出て行った安住君の後ろ姿を見て、思わず吉村君に話し掛ける。

「安住君、格好いいね」
「おう、奴はさらっと男前だよな」

でも普通に友達を褒められる吉村君も格好いいと思う。

                


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