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切原君にまた告白された。

……何だろう、この子馬鹿?

「君、この前殴られたのもう忘れてる?」
「忘れてませんけど、まぁちょっと聞いてくださいよ!これは取引ッス!」

私は切原君を胡散臭げに見た。本気で好きだと力説されても鼻で笑ったけど、取引、と言われてもろくなものが浮かばない。
さすがに私の気乗りしない態度に気づいたらしい切原君は、さっきまでの自信に溢れた表情を消した。

「いや、これはその、本当お互いに利益があるんスよ…!」
「まぁ、詳しく聞くよ」

聞いてみても損はないだろう。切原君は時間的に部活への遅刻確定だけど、彼が勝手に話し出したんだから私は悪くない。

「まず、水代先輩の苛めが無くなります!」
「…いや、増えるでしょ」

どう考えても。
幸村君と別れてすぐに切原君と付き合うって、どこの尻軽だ。…。

「俺が護るんで」
「…切原君が?学年も違うのに、どうやって」
「俺、上にも下にも顔広いんスよ」

それは、まぁなんとなくわかる。切原君は人付き合いの要領が良さそうだ。笑顔がなんとなく憎めないというか…。

「二つ目!水代先輩の我が儘は大抵聞いてあげます!」

にこにこと私にとってのメリットを言っていく切原君を、私は探るように見た。
さっきから、何かがおかしい。

「最後!立海テニス部二年エース、切原赤也の彼女の座!これは早々無いチャンスッスよ…!」
「…ふっ」

思わず笑ってしまった。最後の条件が、いや最後まで…ああもう、仕方ない。
利害の一致なら、どう転んでも切原君を傷つけずに済む。

「その代わりに、私の彼氏って最高に面白い立場が欲しいわけね」
「え、もう気づいちゃいました…?」
「まぁ、我ながら遊ぶには面白い立ち位置だと思うよ。後は女避けとか?」
「うわぁ、流石!お見通しッスね!…で、お返事は?」

キラキラした顔で首を傾げるわんこのような見た目と反して、切原君の性格も大概だな。仮にも尊敬する先輩の元カノでって。何がどうして彼の性格はこんなに破綻したのか。やっぱりモテすぎるから?
…柳君が動かなければ、私も動かずに済んだ。この誘いに即答で否と答えて、ただそれだけの話だった。

「いいよ」
「え、わ、やった!」

薄く笑った私に、切原君も喜んで元気な笑顔を浮かべる。
これで彼と私は一応彼氏と彼女だ。

「とりあえず、私も切原君の遊びに出来るだけ協力するから、切原君も私のお願いに協力する…ってことでいい?」
「はい!あ、アドレス交換しましょ!」
「ああ、うん。じゃあ送信する」

私が条件をしっかり確認するのを他所に、切原君は携帯を取り出した。それに倣い私も携帯を出し、赤外線でさっさと送信する。

「後でメールします!」
「うん。切原君、さすがにそろそろ部活行くべきだと思うよ」
「部活…っやっべ!!」

私に言われて初めて時間に気づいたらしい切原君は、顔を青ざめさせた。こういうところを見ると、少し微笑ましい。

「じゃ、じゃあ!水代先輩、また…えっと昼休み!」
「え…」

昼休みって、昼休みにまた会うの?
私が何か言う前にさすがテニス部な速さで走って行ってしまった切原君に、私は少し夢見心地にぼんやりした後、まぁいいかと教室まで歩き出した。

                


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