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跡部君と話した翌日、学校に行ってすぐ、生徒玄関にて思わず顔が引きつった。
靴箱から異臭って…まさか、現実にやられるとは。いや、それだけならため息一つで終わりだったのに。

私の靴箱の前で驚いた表情してるの…柳君、だよね。なんだ、幸村君と一緒の時じゃなくても意外とわかるもんだな。

「テニス部、行かなくていいの?」
「水代、か」

今は朝練の時間だろうに、と微かに笑顔を作りながら問えば、未だに少し動揺していたようだったけど、柳君は私を見た。
見ている、はず。相変わらず柳君は見ているのかいないのかわからない。目は口ほどにものを語ると言うし、そういう対策なのか何なのか。

「…これは、」
「周囲に迷惑かけるのは頂けないよね」

ターゲットの私以外にも、私の靴箱と近い人は大迷惑だ。悪臭だけじゃなくペンキか何かが多少周りの靴箱にまで飛んでいる。口では私への悪口しか言わないだろうけど、やった人にも多少は苛立つだろう。

「精市に言わないのか?」
「むしろ何で言うの?」

きっかけは幸村君でも、これは私の問題だ。そして今私と幸村君は赤の他人。

「…精市と無関係の話じゃないからだ」
「無関係ではないけど、大して関係ないよ。柳君が何をするのも…まぁ勝手だけど」

私は幸村君の友人として、柳君を高く評価している。
一対一で話したのは初めてだし、幸村君を交えても数える程の会話回数。それでも、わかるものはわかる。

「私もう行くね。まさか先生方もこれを私が故意にやったとは思わないだろうし、片付けはしません。じゃあね」

柳君の作戦に大人しく乗ってやるのも癪だったので、返事の前に歩き出した。うーん…でもどう転んでもデータ通りかも。

「…あー、面倒臭い」

来客用のスリッパを履きつつぼやく。こんな事態になるまで見ないふりをしてきた私が悪いんだけど。
取り返しのつかないところまで、踏み込んでしまった。後悔しても遅いのに。

跡部君は巻き込みたくない。跡部君は優しいから、きっと私が逃げるのを許してくれる。でも、私は跡部君も大好きなんだよ。

「…いっそ、切原君の告白真に受けても良かったかな」

なんて、私はこれ以上誰かを巻き込む気は――


「今の言葉、マジッスか?!」

…?

私は回らない頭で、困惑しながら振り返った。その先に居たのはやっぱり切原君で…何で切原君?
今はもう部活が始まる時間で、二年の靴箱はそもそも此処じゃないし、肩で息する程疲れてるみたいだけど…駄目だ、わからない。

いや、違う。私が今考えることはそれじゃない。

「ううん、冗談」
「えぇええ?!酷っ!俺の気持ち弄んだんスか?!」
「いや、君聞いてると思わなかったし…」

そもそもお前、私のこと本気で好きじゃないだろ。
朝からテンションの高い切原君を冷めた目で見れば、私のテンションの低さに気づいたのか、切原君は騒ぐのをやめた。

「ゴホン…今日は真面目な話に来たんスよ」
「幸村君の話なら答えない」
「大丈夫、違います!」

自信満々にそう言った切原君に、まぁ幸村君の事じゃないなら少しぐらいいいかと黙る。もしそれが嘘ならさっさと立ち去るまでだ。今は朝早いから野次馬がいないし。



「水代先輩、やっぱ俺と付き合いましょう!」

私は閉口した。

                


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