8

パフェが残り半分ぐらいになった。このパフェはコーンフレークかさ増し方をしていないから好きだ。代わりに下にはあっさりしたスポンジとクッキーが入っている。
跡部君は二杯目のコーヒーもブラックにした。本当に強情だ。

「にしても、水代が幸村とな…アイツもモテそうなもんだが」
「何か言い方に刺感じるんだけど」
「競争率は高かっただろ」
「もうその話いいよ。別れたって言ってるじゃん」

私は冗談っぽく苦笑してパフェをまた一口、口に含んだ。
皆して幸村君の話聞いてくるなよ、本当に。

私がまだ、割り切れてないんだから。

「ああ、そうだな。じゃあ下手くそな笑顔の原因だが、お前フッた側フラレた側どっちだ?」
「…」

だから嫌だったんだ。
跡部君にバレたら、普通に慰められるだけで終わらないのはわかってたから。

「やっぱりな。まぁ、水代らしい。相手が幸村なら別れたら別れたでまた色々あるだろ。何かあったら頼れ。無理はすんな」
「かーっこいー」
「茶化すな」
「…うん、ありがとう」

何処まで知られているか、不安はある。でも問答無用でそれを突き付けては来ない跡部君が好きだ。
跡部君も、たぶん私を好きだろう。あ、もちろん友達の意味で。そうじゃなきゃ、こんなに優しいはずがない。

「跡部君って、本命彼女作らないの?」
「本命は束縛やらうぜぇからな」
「ふーん、勿体無い。でも確かに、跡部君忙しいもんね。やっぱり本命彼女に時間割くならテニスしたい?」

意図して聞いたわけじゃない。口が滑った。
言った直後、気付いた時にはすでに遅く、跡部君は目を細めた。インサイト。見逃すはずがない。

「先に言うが、俺と幸村の意見は違うだろうよ。…まぁ、俺はまず本気で好きな女がいねぇから実際どうするかなんてわかんねぇな」
「跡部君、鋭すぎてイラッとくるよ」
「まぁ、幸村とお前の考えも多少なり違うのは確かだろうが…水代がいいと思った判断したならいいんじゃねぇのか?俺は幸村よりお前との方が仲良いしな」

跡部君は、出来た人間だと思う。
答えが決まっている数学的な話なら別だけど、こういう答えのない人間関係の感情論では個人の意見を尊重させられる。決して押しつけない。その癖、自分に限っては個人より集団を優先させる。
そんな彼と友人になれたことが、多少なりとも、拠り所になれているだろうことが、嬉しい。

「…面と向かって言われると、ちょっと照れる」
「おう、光栄に思え」

跡部君の、そういう所が大好き。

                


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