椿さんに続いてまた新たな女の子が空から降ってきた。
「今度こそ立花先輩が…」
「それはない。あの子見るからに可愛くないし、何より痛い。夢と現実の区別ついてない上、私ってばお姫様ねうふふ思想」
私と椿さんは、椿さんと同じ故郷から来たらしい加藤さんを遠くから見ていた。
椿さんは有り得ないって言うけど、私がどうやってもできない素直に好意を伝えるという行為をいとも簡単に立花先輩にできる加藤さんを見ていると、そうとは思えない。
丁度椿さんが食堂の手伝いに行って私が一人になったところで、何故か加藤さんが私に近づいてきた。
「そこのくのたまッ!」
「…はい?」
「皆から聞いたわ!アンタは転生トリップなんでしょ?!私にはわかってんのよっ!」
トリップ、はちょっとわからないけど、てんせい…天性?生まれつきの資質の話?私のくのたまとしての話を皆に聞いたって言ってるし、私の実力が最初から備わっていたものだと、そういう話…?
「いえ、私に天性のものはありません。才能も。努力の結果です」
「はぁ?逆ハー補正ついてないのにこんな状況有り得ないじゃない!私の方がかわいいんだからぁ!」
…?逆はあ…補正?補正…私に師匠とか手伝う人がいたかって、話?加藤さんの方がかわいいのは同意するけど、何の関係があるんだろう。
「私は今までずっと一人でやってきたんですが…」
「しらばっくれんのもいい加減にしなさいよぉ!くのたまのくせに、全然くのたまらしくないし、弱そうだしぃ!」
くのたまらしくない、弱そう。…もう言われ慣れたな。油断を誘えるんだから、利用できる要素でもある。
まぁ、だけど、
「アナタに言われるのは、ちょっと癪だな」
私は無表情で加藤さんを見た。加藤さんは私の唐突な雰囲気の変化に、肩を跳ねらせる。
普段が表情豊かなせいか、私の無表情は怖いらしい。色んな人に言われた。一人で忍務の時とか、結構無表情なんだけどね。
…加藤さんは、平和な世界で生きてきたんだろうな。死の遠い、幸せな世界で。傷もなければ手さえ荒れていない。
そんな人にまで馬鹿にされる筋合いは、ないわ。
「強いつもりだよ、アナタを一瞬で殺せる程度には」
大人気なく殺気を放てば、加藤さんは真っ青になって腰を抜かしたのかその場に座り込んだ。
大人気なくって言っても、向こうの方が年上だけど。でも私まだくの一じゃないからプロらしくもなくってのも違うし。
私、子供なんですよ。簡単な挑発でも苛立っちゃうんです。
「白雪、大丈夫か」
駆け寄ってきてくれた立花先輩が視界に入った瞬間、頭が真っ白になった。あ、あ、駄目。まずい。
「た、っ!馬鹿にしてるの?一般人に負けるはずないじゃない。気安く話し掛けないで」
やっぱり毎度のことながら罵声を浴びせてしまった私は、急いでその場から逃げ、今日も椿さんに泣きついた。
「不意打ちは、不意打ちは卑怯だと思うんです…っ!」
「うん、加藤さんの台詞だと思うな」