一年A組の転校生。
まず、マフィアの手が加えられたかのように急かつ不自然な転校手続き。書類にも不明快な点が多すぎる。両親他界の天涯孤独な中学生なのに一人暮らし。仕事をしていないはずなのに、わざわざ金のかかる私立。
「それが風紀に入りたいんだって。華宮はどう思う?」
「…私の経歴も人のこと言えませんので、私より副委員長に聞いた方がよろしいのでは?」
「ちなみに学校に化粧して来るし、制服も着崩して無駄にアクセサリーもつける。極めつけは弱い」
「粛正しましょう」
私の一切迷いない即答に、委員長が笑った。私は飽きることなく見惚れる。
B班の班長となってからというもの、よくこの手の意見を求められることが多くなった。
「咬み殺しがい無さそうだし、この件は華宮に任せる。まぁ、何かあったら揉み消すから」
「ご心配には及びません。万一があっても自分で全て消しますので」
それだけの実力はあるし、委員長の手を煩わせるなんてもっての外だ。
私の返答に、何故か委員長は複雑そうに私を見られた。
「君って、仕事出来すぎて可愛いげ無いよね。草壁みたい」
「ありがとうございます」
可愛いげなんて、そんな弱者が上に媚びうる為のものは要らない。委員長に対する副委員長の位置は理想そのものだ。
私が委員長に礼をした顔を上げた時、応接室の外からどたばたと騒々しい足音が聞こえた。煩いことが嫌いな委員長が不機嫌そうにドアを見る。私はナイフを握った。
「恭弥ぁ!」
ノック一つ無しに開け放たれた応接室のドアに、私は瞬時に相手の背後へと周り右手でその両腕を拘束した。状況判断もついていない様子の相手に、そのまま足払いをして俯せに床に押し倒す。最後に左手で握っていたナイフを乱暴に首に押し付けた。
「お前、誰に断って委員長のお名前を呼んでいる。その上ノックの一つも無し?相当死にたいようだな」
「っ痛ぁああい!何、アンタ魔莉愛に何すんのよ?!」
本当に煩い女だな。…ん?魔莉愛…聞いた名前だな。
「一年A組の転校生か?」
「あら、知ってるんじゃない?今離したら、魔莉愛は許してあげる。まぁ私のことがだぁいすきな他のキャラがどうするかは知らないけどぉ?」
ふむ、確かに校則違反のピンクのカーディガン、スカート丈、無駄にレースをつけられた制服、香水の臭い、何よりけばけばしい化粧を施された顔…。
相手から来てくれるとは、手間が省けたか。
「ちょっと、いい加減離しなさいよぉ!てか、アンタ何ぃ?!何で恭弥と一緒にいんのよぉ?!」
「一年B組の風紀委員だ。許可も無しに委員長の名前を呼ぶな」
「何アンタ?!アンタもトリップしてきたわけぇ?!此処は私が逆ハーするんだから、アンタどっか行きなさいよぉ…!」
私は女を一瞥し、面白そうに傍観に徹していた委員長を見上げた。
「ゴミですね。委員長、処理して来ます」
「うん、行ってらっしゃい」
見るからに非力で武器も持っていないため、女のワイシャツの襟首だけを掴んで立ち上がった。
笑顔で私と女を見る委員長に一度礼をする。
「恭弥ぁああ!見てないで助けてよー…!」
「黙れ」
「ぁ、…っは!」
喉を潰して喚けなくし、私は女を引きずりながら応接室を出た。
自分のバックには何かついていると言っていたし、そういう不穏分子程早めに処理しておくに限る。
「ただ今戻りました、委員長」
「おかえり」
もちろん返り血一つつけず綺麗なままで応接室に帰って来た私を、委員長は愉しそうに見た。
これは…何かを企んでいるのだろう。私が出ている間に何か思いつかれたのだろうか?
「華宮は僕の名前呼んでもいいよ?」
「畏れ多くて無理です」
即答した私に、委員長はつまらなさそうに私を見た。
委員長、あまり私で遊ばないでください。