異世界から来ました、という一言だけでも十分なのに、個人名、しかも事もあろうにマルフォイ先輩を名指しして仲良くなりたい、なんて大広間で宣言したあのマグルは、馬鹿と言うだけじゃまるで足りないだろう。

「マグルって時点で、ルシウスに最上級に嫌われてるのにね」
「ナルシッサちゃん、機嫌悪い?」
「アレが同じ城内にいると思うだけで最悪」

ナルシッサちゃんは嫌悪に満ちた顔で吐き捨てると、アールグレイの紅茶を一気に飲み干した。
ナルシッサちゃんがマグルの彼女を嫌悪する理由の一つがあの子のマルフォイ先輩への好意なのだろうと考えると、他人事ではなくて苦笑した。

バレたらナルシッサちゃんに嫌われるどころか憎まれるのなんて、当たり前なのにね。

それにしてもあのマグルの子…マルフォイ先輩と仲良くなりたい、なんて身の程知らずもいいところだ。マルフォイ先輩の取り巻きに未だ攻撃されていないのは、相手にさえされていないのだろう。マルフォイ先輩自身もあの子の宣言を鼻で笑っていたし。
仲良くなりたい?そう思うだけで仲良くなれるような人だとでも?それはルシウス・マルフォイという人物を軽く見過ぎだ。マルフォイ先輩は、このスリザリンにおける王であり、高嶺の花。家柄、能力、外見、全ての点に置いて遥か上に君臨する。
私が現在彼と関係を持っているのだって、本来あり得るはずのないことで奇跡だ。

「あ、ルシウスぅうう!」

…。
隣でティーカップが粉々になった。視線を向ければ、ナルシッサちゃんの可愛らしい顔が般若と化している。
また、今度は冷気を感じてそちらを見れば、マルフォイ先輩が絶対零度の微笑でまるで笑っていない目をマグルの彼女に向けていた。

私は小さくため息を吐いた。

「そこのマグルさん、少し黙ってもらえる?」

スリザリンの誰もが口を開かない中では、大声を出さなくても私の声は目立った。自然と注目が集まる。
この忠告は、私と僅かながらも同じ立場にある彼女への良心だ。

「は?アンタ、誰ぇ?」

マグルの子の一言で、ナルシッサちゃんだけでなくマルフォイ先輩の視線も鋭くなった。
…もう少し、言葉には気をつけるべきじゃないだろうか?

「リナリア・パステル。ナルシッサちゃん…マルフォイ先輩の婚約者の、親友」

親友と口にするのさえ、罪悪感を感じて胸が痛くなるから、あまり言わせないでほしい。…当然、それは自業自得なのはわかっているけれど。

「ああ、ナルシッサの。典型的なモブの噛ませ犬かぁ」

…ん?これは、馬鹿にされてるのかな?ナルシッサちゃんのことも呼び捨てって、ああ…


「ナルシッサもさぁ、友達任せにするってそれどーなのぉ?言いたいことあるんなら、自分で言えばぁ?あーやだやだぁ!」

…。
この子、駄目だ。もう私に助けられるレベルじゃないし、私も助けたいって思う気持ち失せた。

「許可も出たようだし…なら、遠慮なく言わせてもらうわね」

笑顔で意気揚々と立ち上がったナルシッサちゃんに、ああもうあのマグル終わったなと、ホグワーツ中の空気が言っていた。

「なぁに?」
「私、マグルってだけで吐き気がする程嫌いなの。アナタのファミリーネーム、ええと…あら聞き覚えが無くて思い出せなかったわ?そんな家柄でよくもルシウスや私のことを言えたわね。それと、アナタが中傷したリナリアちゃんだけど、彼女だって間違いなくアナタより目上の立場の人よ?礼儀も無ければ学もない、おまけに魔法も使えない。ルシウス、この人と仲良くなる確率は?」
「ゼロだな。あり得ん」

…ナルシッサちゃんがキレた。まぁ、ナルシッサちゃんが一番嫌いそうな子だったけど。
マルフォイ先輩もマルフォイ先輩で精神的に殺しにかかったな。

呆然としているマグルの子を後目に、ナルシッサちゃんはまた席について食事の続きを始めた。

「ちょっとすっきりした」
「良かったね」

さて、今晩にはもうあの子はホグワーツにいないだろうけど…それまでにどんな制裁が行われるのか。想像だけで身震いした。


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