三郎言わく、あの空から降ってきて自分は天女だとのたまった頭のおかしい女が纏わりついてくるらしい。
ふむ、俺は現在仙蔵と交際中なわけだが…邪魔だな。
「愁矢、どうした?」
「ん、ちょっと気になることがな」
「気になること?」
まったく、相変わらず俺は嫌な人間だな。
口に出す言葉全てが策略。全てはそう、大切な大切な彼女に集束する。彼女のために、という名の俺の生きる意味で自己満足。
「うん、ちょっと忙しくなるかも」
笑顔で言って、仙蔵のところまで走った。
「せーんぞっ!」
「ああ、愁矢」
ふわりと同時に笑い合う様は、性別見なけりゃ我ながら似合いの恋人同士。
「これから忙しくなるから、しばらく会えないかも」
「天女か?」
「…よくわかったな」
「お前のことだからな」
仙蔵は、たまに此方がどきっとするぐらい鋭い。本当に俺の思考が読めるみたいで、それはまるで――いや、まだいい。俺はまだ、気づかなくていい。
「追い出すか?殺すか?」
「仙蔵、俺のこと何だと思ってるんだよ」
「違ったか?」
「…口実さえ作ればいいよ。後は適当に決める。何てったって、策を立てさせれば右に出るものはいない立花仙蔵と歴代きっての天才な俺だ。やるなら完璧にやろう」
違和感一つ残さず、事実を作ろう。
笑った俺に、仙蔵も笑い返した。
何で俺が仙蔵をここまで信頼するか、そんな理由は見てみぬふり。大丈夫、ちゃんと卒業までに突き放すよ。俺だってあの子がかわいい。
「加藤魔莉愛、学園長がお呼びだ。一緒に来てもらおう」
あれから何日経ったか、現在俺は無表情で天女の前に立っている。天女の隣には三郎。
「モブは黙っててよっ!今私、三郎君とお話中なのぉ!ねっ!」
「…愁矢、何の話か知ってる?」
天女を嫌そうに見てから、三郎は窺うように俺に聞いた。俺は無表情なまま口を開く。
「その女が間者であるという証拠が数多く上がった。よって処分する。加藤魔莉愛、もう一度だけ言う。来い。来なければこの場で処分する」
「はぁあ?!煩いなぁ!魔莉愛は天女なのよっ?!三郎、コイツ黙らせてよ!」
「何で私が。お前、ちょっと口を慎…あ」
優しい三郎が忠告している途中で悪いが、俺の最後の警告を破ったのが悪い。
無表情で、一瞬にして天女の首にくないで一閃の赤い痕をつけた俺は、すぐに天女を三郎から引き離すように蹴り飛ばした。
直後、噴水のように血が舞う。…うん、かろうじて三郎にはかからなかったかな?
「三郎、後俺やっとくから行っていいよ?」
「…相変わらず、忍務の時は別人だな」
「はは、忍務成功率九割以上は伊達じゃないんでね」
笑顔で言えば、疲れたような顔をした三郎はじゃあ任せたとその場を後にした。俺はその後ろ姿に手を振ってから裏々山まで天女を担いで行き、予め簡単に墓穴を掘っておいてもらった中に息絶えた天女を落とした。
ふむ、帰ったら学園長と仙蔵に報告して、風呂入って、さっさと日常に戻ろう。
「俺の脚本に異分子は要らないんだよ」
天女の血で染まったくないに、ご利益でもあるだろうかと笑った。