また新しく、忍術学園に女がトリップしてきてからというもの、俺の機嫌は大層悪い。人間だったら、口ひきつらせてこめかみひくひくさせてたかなってぐらい悪い。超悪い。
何故って、…俺(湯飲み)の前で繰り広げられているこの光景を見りゃわかるだろ。
「伊作君はぁ、医療忍者になりたいんだよねぇ?」
「…何でそう思うのかな?」
「えへ、びっくりしたぁ?魔莉愛何でも知ってるんだぁ…っ!」
うん、お分かり頂けただろうとも。
見るからにぶりっこな化粧は濃いわ香水臭いわな女が、自分の大切な御主人様に纏わりつく。しかもこの女、さっきモッチーをボロクソに言いやがったし。自称本物の天女だけど、まず天女な要素何処だと聞きたい。
「伊作君はぁ、好きな子とかいるの?」
「…いる」
「え、本当ぉ?!ねぇその子、かわいい?」
おい、自称天女。何で嬉しそうにした。お前まさか恐れ多くも、好きな子は目の前の君だよ、とかいう乙女ゲーみたいな展開を期待してんじゃねぇだろうな?いや俺乙女ゲーとはまるで縁なかったから、実際どんなもんか知らんが。
「かわいい…えっと、いや凄く…格好いい、かな…」
顔赤くして吃りながら視線を右斜め上に逸らす伊作さんのかわいさは異常。
…いや俺落ち着け。格好いい…ああ、そういや伊作さんが好きなのって男だもんな。ちくしょー、誰だよマジで。やっぱ食満か?羨ましすぎて蹴りたいわ。
伊作さんのかわいさに見とれていたらしい自称天女も、伊作さんの言葉に引っ掛かりを感じたらしく、わざとらしく首を傾げた。そういうのは伊作さんやモッチー、後綾ちゃんなんかがやるからかわいいんだよ。
「格好いい…?」
「うん、世界一格好いい人だよ。まさか男を好きになるとは思わなかったけど」
「…は?」
あら?伊作さん、それ一応隠してなかっ……ああ、そういえばさっきからの伊作さんと自称天女の会話、自称天女が間者だって断定するには十分なもんだったか。なら――どっちにしろ消されるなら、何を言ったところで問題ない、か。
「男同士?…何よ、何それ」
あん?
気でも狂ったようにぼそぼそと喋る自称天女に、さらに頭がおかしくなったのかと嫌悪の視線を向ける。
「男同士?!何それ気持ち悪いっ!魔莉愛より男とか、ばっかじゃないの?!キモいキモいキモいッ!」
は?
「お嬢さん、いい加減にしようか」
伊作さんの前ではあるが、注意逸れてるし何より黙って見ていられなかったため、俺は人間になり瞬時に着物を羽織った。それからすぐにかろうじて笑顔で自称天女を伊作さんから引き離し、壁に押し付ける。俺の右手にはくない。
「っだ、誰?!」
「さぁ?ヒーロー?」
「恒希さん…!」
動揺する自称天女を嘲笑してから、驚きの声を上げた伊作さんを振り返り微笑む。うん、傷ついてはいないみたいで安心した。
「…って」
「あ?」
またぼそぼそと何かを話した自称天女に視線を戻す。くないを向けているにも関わらず、顔を赤らめ俺に向ける視線には好意しか見られないことに眉を寄せた。
「新キャラ、だよね?!プロ忍者?ねぇ!魔莉愛と付き合ってっ!」
…はぁ?
……いや、何この女。マジで理解不能。基本的に全てが理解できない。
そして俺と同じく理解に苦しんだゆえか、伊作さんが自称天女に殺気を向けた。何故か自称天女は俺に助けを求める。
いやいやいや、俺今お前にくない向けてるじゃん。明らかに敵じゃん。え、目悪いの?見えてないの?
「…恒希さん、僕が始末します。離れていてください」
あの、伊作さん。何で俺非戦闘要員みたいな扱い?俺強いよー。今も自称天女押さえつけてるん、だけど…あれぇ?
「恒希さん…っ!魔莉愛怖いっ!助けてぇ!」
だから何でお前はくない向けてる相手に助けを求めるんだよっ!意味わかんねぇよっ!
ちなみにこの事態の収拾は、部屋に戻った食満により自称天女が間者として連れていかれることでついた。
なんかあの…俺、余計なことしたのかな…。