なんか、A組に転校生来たんだってー。で、その子が跡部に喧嘩売ったんだってー。今日マネージャーの見学するんだってー。
もうそれどんな夢小説的展開?転生トリップして性別変わった俺は実は傍観主ってやつだったの?まぁ、遠くから逆ハーレム作る女の子見るのは楽しいかもなぁ。

「どうせ跡部とかの顔目当てだぜ?あー部活行きたくねー…」
「まだ会ってないんだろ?実はめちゃくちゃいい子な美少女かもだぞー」
「他人事だと思ってこの野郎…!」
「おう、他人事だ。ガンバレー」

俺が笑顔で手を振り、さぁもう帰りのSHRも終わってるんだし帰ろうと席を立ったが、岳人に腕を掴まれた。

「朔人…」
「な、何だよ」
「お前も道連れだ!」
「は?!」

岳人の理不尽な叫びと共に、何故か俺はテニスコートまで半ば引きずられながら連れて行かれようとしている。
…俺をテニス部に入れようとした時はここまで必死じゃなかったくせに、何でこんな強行手段?

「岳人、その転校生の子そんなに嫌なのか?」
「…なんかさ、気味悪ぃんだよ」
「あ゛ぁ?」

何だコイツ。女の子相手に気味が悪いとか、男として紳士としてフェミニストとして聞き捨てならんぞ。

「俺ってさ、レギュラーでも準レギュラーでもないし、跡部とか忍足みたいに目立ってはないだろ?」
「まぁ…」

てか、単純にあの二人の存在がアレなだけかと。
いや岳人もそのうちレギュラーになるし、髪色からしてアレだけど。これからのテニス部レギュラーでアレじゃない方が希少価値だけど。

「転校生がさ、俺の話したらしいんだよ…俺はそいつ知らねぇのに。それにジローとか、宍戸の話も」
「あー…」

岳人が覚えていないだけで、実は幼馴染みという可能性もなくはない、が――

「オッケ。しゃあない、俺も行ってやるよ」
「本当か?!サンキュー!」

たぶん、本当にその子夢小説的展開なトリップ少女だろうから。状況は違えどトリップの先輩な俺が行ってやるのは…善意とその他ごちゃごちゃした理由。




「あ、がっくん!やっと来たぁ…!」

すみません、間違えました。帰ります。

テニスコートに着くや否や、普通顔だが化粧の濃い女の子が甘ったるい口調で岳人に駆け寄ってくるのを見て、俺はくるりと180度方向転換した。
しかし、岳人に腕を掴まれる。デジャヴ。

「朔人、付いてきてくれるんだよな?つか見棄てんなマジで。俺生理的に無理」
「無茶言うなし。いくら俺でも女ならほいほい喜ぶと思うなよっ!中学生はすっぴんの垢抜けてない感じがかわいいんだ!」
「それは聞いてねぇよ…!」

嫌だ、もうトリップ仲間とかどうでもいい。あのわかりやすく媚びた話し方俺は嫌だ。その歳で化粧も嫌だ。何で此処まで悪寒が走るって、俺元女だからこういう子の裏の顔知ってる。やだ、関わりたくない怖い!

「あ、自己紹介まだだった!ごめーんっ!私、魔莉愛だよ!よろしくね、がっくん!」

俺をガン無視なのはいい。むしろ絡まれたら嫌だし。
…人として常識的に、初対面でその呼び方はどうかと思う。あだ名とか名前は、仲良い相手もしくは仲良くなりたい相手に呼んでもらいたいもんだろ。そして名字は?お前の名字はどちらに旅行中?

「…向日岳人、だ」

岳人さん超引いてる。なんか受け答えがまるでクールキャラみたいになってる。何というキャラ崩壊。魔莉愛恐るべし。

「がっくんかわいーっ!」
「っうわ!」

岳人の頭に手を伸ばす魔莉愛と、それを持ち前の反射神経で避ける岳人と、岳人に腕を掴まれてるせいで逃げられない俺。…日常に戻りたぁい。

「岳人、提案だ」
「…何だよ、もう嫌だ」
「それは俺も同じである。帰りたい。よって二人で跡部説得に行こう。マネージャーにさえならなきゃまだいいはずだ」
「…朔人、跡部嫌いじゃなかったか?」
「死活問題だ。やむを得ん」

俺は岳人と共に、一二の三で一目散にテニス部の部室まで走った。後ろから魔莉愛の声なんて聞コエテナイヨ…?

正直な話、この場さえ逃げられれば俺は傍観者なただの岳人の友人君であり、後は非情と言われようが他人事なので、さっさと今日を終わらせたい。

「…お前、今変なこと考えなかったか?」

ぎくっ!

「はは、気のせいさっ!さぁ走ろう!あの夕日の向こうまで!」
「露骨に怪しいな、おい」


「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -