前世、というものがあるらしい。何という怪しい話、しかし自分にその記憶があっては疑うのも馬鹿らしくなる。そう、俺ってば前世の記憶をまるっと残したまま高校生やってます、てへ。
前世の俺は実に不器用な人間だったらしい。しかも忍者。忍術学園なんてとこに通って、それなりの生活送りつつ六年生きて、適当な城に就職して、戦って死んだ。好意の伝え方なんて分からずに、意地張って強がった天の邪鬼。何も言えずに死んじゃったかっわいそーな十七歳(享年)。

まあ、そんなこと覚えててもどうにもなんねえがな!覚えてないからこそ幸せになれることもあんだよ。なあ。

「せーんぞっ!」

「っ!…なんだ、名前か」

俺を見て呆れた表情を返す幼なじみ。兼、恋人。さらっさらな髪の毛を片手で弄りつつ、背中に抱きつく。ちなみに前世でも知り合いだった訳だが、仙蔵はまったく覚えてないので問題なし。
更にいちゃらぶしても此処は仙蔵の部屋だし、羞恥プレイとかそういう心配も無い!小さくガッツポーズを決めると、腹に肘鉄が飛んできた。ぐあ……っ、こいつのどSは一度生まれ変わったぐらいでは変わらないか。
だが俺は挫けない。もう一度背中に引っ付いて、肩に顎を乗とけたままその横顔をガン見してみるの術。術じゃねえけど。

「…さっきから何だ、名前」

「折角部屋で恋人が二人きりなのに仙蔵が課題ばっかりしてるから寂しいよー仙蔵大好き」

「…恥ずかしい奴め」

あ、仙蔵ってば耳まで真っ赤。とりあえずもっと強く抱きしめてみたら「痛い!」と怒鳴られた。仙蔵が諦めたのかペンを置いたので、今度は堂々と前から引っ付いてみる。やー、あったかい。

あー、幸せだなあ。昔とはすごい違いだ。
仙蔵を見つけてから、俺頑張ったんだぜ?何と言っても、記憶の無い奴は普通の(どSな)男子高校生だもの。そんな奴の好み狂わせてこーんなバカップルにするなんて、分厚い本ができらあ。

「仙蔵、大好きだー」

「っうるさい!」

顔をしばかれた。まじ痛い。しかし照れ屋な仙蔵も可愛いです。

あーあ、本当に仙蔵が何も覚えてなくて良かった。
なんたって前世じゃあ、俺たち留三郎と文次郎を凌ぐ険悪さだったからなあ。すっげー好きだったのに、素直になれない思春期め、砕け散れ。強がって意地張って何も伝えられなくて、挙げ句には戦場で出会ったお前と本気で殺し合った。なーんて、ロクな記憶じゃねえもんなあ。

出来れば血の池にでも沈めて、二度と思い出さないでくれよ。


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