「綾部喜八郎が俺の布団に夜着ノーフンで寝ている」
「声に出さないでください、きゃっ恥ずかしい」
そんな事いいながらも綾部は真顔なのでモーマンタイ。

綾部喜八郎は変人である。
俺はいわゆるモブである。モブの先輩(卒業済)やモブの後輩と仲良くモブやってたモブの中でもモブモブしいモブである。そんなモブな俺が何故目立つ派の綾部喜八郎に「夜布団で待ってるね(ハァト)」イベントがおきているのだろうか。どうせだったらそんなんくのいちにやってもらいたかった、罠だとしても。綾部はいくら見た目は綺麗でも男である。俺は女の子大好きである。すんすん。おそらく相性は最悪だろう。すん。

「綾部喜八郎、問うても良いか」
「スリーサイズ以外ならお答えします」
「突っ込まねえからな。何故俺の布団に寝てる」
「アピールです。まぐわいましょう先輩、夜が明けるまで」
真顔でにじりよってくる綾部喜八郎。どこのホラーですか、髪の量多いから余計怖い。
綾部が一歩よれば一歩引く距離を保ちながら俺は質問を続ける。
「綾部喜八郎、何故俺なんだ」
「私はずっと名前先輩のことを見ていたから」
「ハァイ、ストーカー発言いただきました。怖い、お前怖い」
「なのに名前先輩は気づいてくれないから」
「いっとくけどね、モブとキャラクターは関われないの。そんなんできるのお前くらいなの。俺にそんな相反するヤツ見続けれる能力ないの。ユーシー?」
「でも今は見てくれてます」
「俺が見ざるを得ない状況をお前が提供しているからだろうがァァァ」
わかった、綾部喜八郎すごい疲れる。アイシー。
諦めて一人部屋のモブ後輩に部屋をシェアしてもらおうと回れ右する。「そこターコちゃん三十一号がありますよ」なんて脅しが聞こえたがどうせハッタリだろ、そうなんだろ。

気にせず一歩踏み出せばドォォォォォォォン。
「…よくあるオチですよねー。背中いたい」
「ですねぇ」
同調された。ちくしょう


ストンと綾部喜八郎が穴のなかに降ってきた。背中を打って動けない俺の横に擦り寄ると、「二人きりですね」と真顔で頬を染めた。死刑宣告。
「今回のは自信作なので、こっから見えるよりだいぶ深めなんですよ」
「やめろ、耳元で吐息交じりに囁くのやめろ」
「地面は音を吸収するので何をしてもナニをしても誰にも聞こえませんよ」
「カタカナ表記やめろ。こっち全年齢対象だから下ネタはご遠慮しろ」
「まぐわいましょう先輩」
「目をマジにするな」
いつもの真顔なのに目力だけ半端ない綾部喜八郎が俺の胸に手を添えて顔を近づけてきた。
これが女の子だったら喜んで受け入れただろうけど、綾部喜八郎は何度もいうようだが男だ。
…いくら可愛くても男だ。だまされてはいけない。

「先輩、好きですまぐわいましょう」
「告白すれば受けてもらえると思うなよ。俺とお前は今まで一切関わりなかった他人だぞこのやろー」
「大丈夫です、愛で凌駕できます。先輩の髪の毛だって大事にとってあるんですよ」
「突っ込まねえからな。愛が重いのはご遠慮だ、さっさと出してくれ」
「名前先輩も私のこと好きになってくれたら出します」
「あのなあ…」

綾部喜八郎と会話を重ねながら時間をとる。だんだんと体力が回復してくる、六年生をなめるでないよ。
「じゃあいい、自分で出る」
そういい残し、一つ跳躍して外に出た。
出るときにふとみた綾部の顔は珍しくぽかんとした、真顔以外の表情を作っていた。
「お前も出るの忘れるなよ!」と穴の中に声を投げかけて、脱出用の麻縄を親切に残しといてやる。杭打ったから外れないはず、大丈夫だ。
綾部から何も返事がないのが気がかりだが、まあ多分そのうち出てくるだろう。

「先輩ってば、追われると逃げたくなるタイプですか」
「突っ込まねえからな」
何故俺がその場を離れようとした瞬間に背後に綾部喜八郎がたっているのか、という状況についても突っ込まねえからな。










「先輩、先輩好きです。私が学園に入学したときに、穴を深く掘りすぎて自分で出れなくなって寂しくてさみしくて泣いてたときに、用具委員である名前先輩が勘違いして穴を埋めかけて私が窒息死しそうになったの覚えてないんですね。寂しいです」
その夜私が部屋で布団にくるまって泣いてて、そういうのを名前先輩がたまたま見たとか、そんなイベントはおこらない、ほら神様って意地悪ですから。
あー、先輩好きです。壊してほしいぐらいに。あれから先輩を見ると胸がどきどきして仕方ないんです。心臓がつぶれそうなくらいにぐるぐるするんです。額から汗が出てとまらなくなるんです。人を好きってこういうことでしょう。
「恋」っていうのは下心、心が下にあるから。じゃあ「愛」は真心?
私の場合は違いますよ、愛は愛です。
このどろどろぐちゃぐちゃはきたくなるほど先輩を好きな感情を総じて愛と呼んでるんです、他に形容する言葉を知らないので。


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