きっと俺の果てしない想いが、時空とか輪廻とか、そういう説明できない非科学的な何かをねじ曲げた。
だけど神様って中途半端だな。もう数えていない。名前はもう何回死んだだろう。俺は何回、名前を助けられなかったんだろう。
それでも俺は、今度こそ名前を救おうと何百何千何万回だって、頑張り続けるんだ。
「名前、おはよう」
「おは、よ…?うわ!兵助なんで俺の部屋にいんの?!」
「だって名前、ちょっと目離すと死んじゃうじゃないか」
「何それ遠回しないじめ発言?!」
そんなか弱くねぇよー、と呆れ顔で笑う名前に、曖昧に笑い返す。嘘つき。
布団から上半身を起こした態勢でありながらも目が半分しか開いていない名前はきっと、俺の話も半分しか聞いていない。だからこそ今の内に言わなきゃ。
「名前、今日だけ俺のいうこと聞いて。裏山には行かないで。街にも行かないで。学園の外には絶対に出ないで」
「えー…てか眠い」
「今日のお昼の冷や奴、名前にあげるから」
「それ、俺そんなに嬉しくなーい」
そういえば、何で今日の昼が冷や奴だって兵助は知ってるんだ?と眠そうに目を擦りながら言う名前の質問を笑って流して、胸の前で両手を合わせる。
「お願いだ」
「仕方ないなぁ…」
唇を尖らせながらも承諾してくれた名前に、名前はそこで動かないでいて、と部屋の隅に追いやり手早く布団を畳む。
それから着物一式を揃えて名前の元まで運び、名前のお気に入りの結い紐を手渡す。
「何で今日の兵助、そんなにかいがいしいの?」
「名前がすぐ死ぬから」
「いっそ暗示をかけられてるような気さえしてきた」
今日の昼ごはん、お前と一緒に食べるためだったら、俺何でもするから、
「死なないでね」
いつも名前は無責任な笑顔で勝手に殺すなってすぐに言うのに、今日の名前は何も言わない。
もしかしたらもしかしたらもしかしたら、今日は違うのかもしれない…!今日は、今日じゃなくて、名前は死なないで、昼ごはん一緒に食べて、これからも――!
「あのさ、兵助、」
「!な、何だ名前…!」
名前が真面目な顔して言ったいつもと違う台詞に、俺は声を上ずらせながらも名前の名前を呼んだ。
名前は中途半端に開いた口をゆっくりと閉じ、それから諦めたように苦笑した。
「いや、やっぱり何でもないや」
それから三分後、名前は学園に忍び込んだ曲者の放ったくないが狙いすましたかのように丁度心臓に刺さり死んだ。
あぁああああぁああぁ。また駄目だった。失敗した。大丈夫!大丈夫だぞ名前!次は夜中の内に落とし穴を埋めて、熊を倒して、曲者を消して――
大丈夫、次こそは成功する!あああ、忙しい!
今日もまた俺、苗字名前は助からなかった。
いや、今日自体が71回目なんだから今日というのもおかしいのだけど。
俺は71回死んだ。
俺は71回生き返った。そしてまた今日が始まる。72回目の今日が。
今回兵助に初めて言おうとした。でも言わなかった。
「いい加減俺を助けるの諦めて、幸せになってくれよ」
毎回毎回必死に俺を助けようとして助けられず壊れていく兵助に、言えない。俺がいつもと少し違うこと言っただけで嬉しそうに目を輝かせた兵助には、言えないよ。だってアイツ、未だに目が諦めてないんだ。言ったら本当に狂っちゃいそうじゃないか。
俺はきっと助からない運命ってやつなのだ。
兵助、ほら早く諦めてくれよ。
じゃないと俺も、諦めきれない。俺の長所は、自分の命と兵助の命天秤にかけたら迷わず自分の心臓握り潰しちゃうような、そんな諦めの良さなんだから。俺から長所、奪わないでくれよ馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ああぁああああああああああああああ
あいしてる。
助からない(死に逝く彼もまた、すべてを知っていたのです)企画:
なんでもないの様提出