男主短編 | ナノ




私は来月の任務について書き連ねられたそれはそれは長い羊皮紙を脚を組んで読みながら、ドアの外から聞こえてくる悲鳴に眉を寄せた。
この前酷い失敗をしていた新人がクルーシオか何かで拷問を受けているんだろうが、酷い声だ。

死喰い人のブレーンと呼ばれるようになってどれだけの時が過ぎたかなんて数えてはいないが、私は死喰い人の中でそのように呼ばれていた。
むしろ誰にも自分の名前を言わないため、ブレーンが私の名のようになっている。実際そうだと思っている奴さえいそうだ。

「7…いや、6で事足りるな」

今目を通している羊皮紙の情報から考え、向かわせる死喰い人と人数を脳内で構想する。
…ああ、6でイケる。もし失敗となったらそれは誰かがかなりのミスをした時だ。

ノックの音がして、私は意識を現実へと戻した。
悲鳴はいつの間にか止んでいた。

「どうぞ」
「…失礼致します」
「ああ、ルシウス君か」

彼は――と言うか、彼に限らず誰も知らないし覚えてはいないだろうが――私のホグワーツ在学時代の後輩だ。
懐かしいことを思い出した。そういえば当時の友人達は元気だろうか?心配をかけると悪いからと、ルシウス君やその他大勢と同じくご丁寧に記憶をいじったからなぁ。卒業以来会っていない。

「どうかなさいましたか…?」
「いや?何でもないよ」

もう、君の忘れた記憶の話さ。
私はふふ、と笑って今まで目を通していた書類をルシウス君に投げた。慌ててキャッチしたルシウス君に、笑顔で口を開く。

「人数は6人」
「は?…あ、はい。承知致しました」

一瞬きょとんと私を見たルシウス君に疑問が募る。

「それ目的で来たんじゃなかったのか?」
「いえ…」

言葉でこそ否定はしたものの、肯定したように言葉尻を濁らせ、迷うようにルシウス君は視線をさ迷わせる。

「あの、なまえさん」
「…」

名前を呼ばれたのはいつぶりだろうか。
僅かに光を灯したルシウス君の両の瞳が私を貫く。

「私と貴方は、本当に…本当に初対面、でしたでしょうか?」

頭がぐらぐらする。走馬灯のように昔の話が脳内を巡って…あああ、この男、どこまで――

「すみません、変なことを言いまし、」
「思い出してよ」
「…?」
「思い出してよ、ルシウス。その時の君の答えが…今更になって気になってしまった。君のせいだよ?」

グリフィンドールの首席で魔法省のエリートコースに進む予定だった、そんな私の人生を俗物一つで狂わせ、この私に地獄への道を喜んで歩かせるなんて芸当を無意識の内にやってのけた、かつての恋人。
君の幸せを勝手に決めた私だけれど、君にとっての君の幸せは何だろうね?
私の幸せは、今の君を見守ることでもあり、二人で地獄に落ちることでもあるよ。


お題:Black casket様より

ゲヘナ=地獄


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