男主短編 | ナノ




店に置かれている時は何度生死の境を味わったか…小さな子どもにぶつかられたりと、無邪気に殺されかけていました。その度に相手が子どもだという事も忘れ、ふざけんじゃねぇクソ餓鬼がァ!!と心中罵る日々。
今が幸せです。


…どうも初めまして、俺小鉢です。

いや、待って待って。心の病気は患ってませんから!ちょっと俺のボディ見てみろって。お椀でも湯飲みでもなく、ほら!小鉢だろ!
まさか死んだら小鉢に生まれ変わるなんて思ってもみなかった。普通こういうもんなの?人って死んだら食器になるの?
ついでに過去に戻った。まさかの室町時代。此処、忍者とか普通にいるんだぜ?

まぁ、達観したね!自殺もできないからせざるを得なかっただけだけどな!

そんな俺、当然動けない。話せない。できること、思考、味覚以外の五感働かす。以上。
目も耳も鼻もないのにどうやってるのかは不明。

でもね、俺の持ち主さんがもう凄ぇいい奴なわけ!だから今の俺、幸せなんだ!


「僕ね、君が生きてるような気がするんだ」

俺に対して真剣な顔で電波発言してるこのイケメン、善法寺伊作君が俺の持ち主!
伊作君、実際その通りだからお前凄ぇえええ!って俺は思うけど、その発言はあまりに電波だ。前世の時に友達がそんなこと言い出したら、俺は全力で引いたぞ。


「すみませーん、怪我しちゃいました」

あ、また来やがった雌猫野郎。
医務室に入ってきた雌猫野郎こと、名前覚える気皆無なくのたまに俺は殺気を送った。…送れないけどな!小鉢だから!気分だ気分!

「また?」
「うん…注意力が足りないのかな…」

うつむいた雌猫野郎の表情は、伊作君に見えなくても俺からは見える。おい雌猫、口元にやけてんぞ?
コイツ、絶対わざと怪我してる。自傷は伊作君に簡単にバレるだろうから、組み手で手抜くとか、綾部って奴の穴に落ちてるんだろ。
伊作君狙いなのが目に見えて苛々する。来るなら正々堂々と来やがれ。
色の授業ならそんなもんもあるんだなぁ、で終わりだが、それにしてはもう四年もこの調子だ。

「ちょっと待ってて」

伊作君はそう言って、俺を手に取った。室町の事情はよくわからんが、俺には消毒薬的なものが入っていると思われる。よく最初に使われるし。軟膏?
俺は雌猫なんぞに俺の中の薬を使って欲しくはないが、伊作君が望むのなら仕方あるまい。お前拒否権ねぇじゃん、は禁句だ。
本心としては塩でも塗り込んでやりたいんだが…。

その後治療を終えた雌猫はペチャクチャと夕暮れまで話し、帰っていった。その後ろ姿を呪っていると、伊作君が呟いた。

「心配だなぁ…」

?!
伊作君?!何あの雌猫に絆されてるの?!ダメ!アイツだけは許しまへんでっ!
どこか遠くを見ている伊作君に、俺は心の中で必死に訴える。
例え無駄でも、俺をあの日店で選んで忍術学園まで連れてきてくれて、今も医務室で仕事を与えてくれる伊作君があんな雌猫のモノになるなんて…俺は堪えられんッ!!

いっそあんな女にくれてやるぐらいなら俺がもらう!
俺としては伊作君が女の子がいいんだが、我が儘は言わん。俺が女でもいい。一回小鉢になっちゃうと、もう性別とかどうでもよくなる。
伊作君なら、俺抱けるし抱かれられるし。伊作君、かわいいし格好いいし、優しいしもう何もかも最高だし。不運?んなもん俺が護ってやんよ。

…あれ?これって――

「薬が全部なくなったら、綺麗に洗ってあげるからね」

そう伊作君に言われちゃ、あのしょっちゅう怪我してくる雌猫も邪険にできない。伊作君マジック。


伊作君、もしいつか奇跡が起きて俺が人間になれたら、俺を君のお姫様にしてね。

訂正。本当は今すぐ伊作君のお姫様になりたいです。


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