男主短編 | ナノ




※仁王成り代わり




姉ちゃんの中二病な趣味により綺麗に染まった銀髪の髪が視界に入り、一つ溜め息を吐いた。
仁王雅治人生まっしぐらかよ。テニスは好きだけど、何だかなぁ。…まぁ、染められてから根元黒くなる度にまた染め直されてもう中一から中三になってるんだから今更なんだが。
それに何故か人気少年漫画のキャラクターの一人、仁王雅治として生まれ変わったのだってもう14年は経ったんだから、今更。

「転校生、ねぇ…?」
「何だ?仁王が興味あるなんて珍しいじゃん」

さっき教壇で自己紹介していたばかりの、夏休みも終わったおかしな時期に転校してきた一人の女を頬杖をつきながら見ていると、女はすぐに此方を見て照れたように笑った。

「へー、結構かわいくね?」
「そうか?ありゃ面食いのぶりっ子ちゃんじゃよ?」
「何でそう思うんだ?」

この友人はいい加減、女の善し悪しを見分ける目を持ってもいいと思う。俺が居る内は適当に刺しそうな虫は追い払ってやるが、俺が居なくなったらころっと騙されて泣かされそうだ。

「さっきから俺等の方ばっか見ちょる。普通はクラスに馴染もうと、近くの女子達と話すもんぜよ」
「はーん、成る程ねィ」

納得したと転校生を見るのをやめ昼食に専念し始めた友人、もとい仁王雅治と同じく王子様の一人である丸井に、俺は僅かに安堵する。まったく、危なっかしいコイツのせいで俺はすっかり保護者気分だ。
まぁ赤也に比べたら…ましか。

「あの、仁王君…」

転校生に話しかけられた。おっかしいなぁ…俺、名前名乗ってないはずなんですけど?
さすがにそれには丸井も気づいたらしく、毛を逆立てさせた猫のように警戒の視線を送る。俺の一言で一気にこの対応。無償の信頼。まぁ、かわいい。

「何じゃ」
「ちょ、ちょっと…お話、いいかな…?」
「……ええけど」

いかにも迷惑そうに言ったにも関わらず転校生は気づいていないらしい。女の子達の、睨むとまではいかなくても何アイツといった異物を見る目にも気づいていないし。俺もアレだけど、女の子達の方にも気づいてないのは彼女の今後の学校生活に大いなる支障が出そうだな。
なんとさらに転校生は空気を読まず、此処ではちょっと…なんて言ってくるもんだから、俺はわかりやすくため息を吐き丸井に手を上げた。

「丸井、ちょっと行ってくるぜよ。帰ってきて俺の飯無くなっちょったら殴る」
「わかってるって…!安心して行って来い!」

慌てたように送り出す丸井にマジで食うなよと視線でも訴えてから、仕方なく席を立ち転校生にさっさと行く場所案内しろよ、と冷めた目でその目を見た。
それに赤くなるこの女の神経はたぶん一部死んでるんだろう。



中庭に着いてすぐ、転校生は口を開いた。

「仁王君、好きです!」

恥じらうようにちらちらと俺の顔を見ながら落ち着きなく自分の両手を絡め指を微妙に動かす転校生に、俺は呆れる。
…転校初日でそれとか、顔しか見てない宣言と変わらんだろ。阿呆か。

「俺、今彼女要らん」

断るだけ断って、背を向ける。
はぁ…あの丸ブタ、ちゃんと俺の飯に手つけてないだろうな?微妙にでも減ってたらしつけしてやる。

「待って…!」

面倒を隠しもせず、それでも一応は振り返った俺は優しいと思う。

「私ね、仁王君に会うために此処まで来たの!だから、諦められない…っ!」
「そんなん言われたって、俺も困るぜよ」

俺に会う為…って、今までの不審点統合すると、もしかしてこの子も俺と同じ生まれ変わった子?いや、にしては俺に会う為…まさか自殺でもした、とか?
だったら余計勘弁だけど。お生憎様、俺はお前の求めてる仁王雅治と別人だし。
眉を下げていかにもお前のせいで仁王雅治君がお困りですよという顔を作ってやると、転校生は急に笑顔と期待に満ちた目で俺を見た。

「あのっ、身体の関係とかどう…?好きなことして、イイよ?」

恥じらうように頬を染め、わざとらしくはあるものの上目遣いの誘うような顔。

……ほぅ、これは目から鱗。随分と男を誘うのが上手い子だったようだ。
あー、俺でよかった。これがブンちゃんだったら笑えない。さて、さっさと釘刺しておくか。


「小便臭い餓鬼がこんな所までご苦労さん。レイプ志願じゃったら俺じゃのうてその辺の奴に金払ってやって貰いんしゃい」

にっこり、そんな笑顔で只管に氷点下の声音で抉って視線を外す。これで心折れて暫く登校拒否でもした後、俺の事避けてくれる展開なら最高なんだけど。そりゃ流石に望み過ぎか。



教室に戻ると丸井がそれはもう心配そうに俺を出迎えてくれた。なんて従順な…転校生のはうざいだけだったけど、これは可愛いペット。
うーん…これは一応、報告の一つでもしてあげるべきかな?じゃ、結論だけ。

「アレと付き合うぐらいじゃったら、俺ブンちゃんと付き合うナリ」
「え、無理」
「例えに決まっとるじゃろ」

俺にそういう趣味こそ無いものの、即答されるとムカつく。

「それにお前よりは俺ならジャッカルと付き合うぜよ」
「は?!何でだよ!」

キレられた。何だよ、対抗意識か?

「少なくとも男目線ならジャッカルの方がずっとイケメンじゃ。可愛さやら兄ちゃん的魅力なんて知らんぜよ」
「…俺は、結構仁王のこと…すき、なんだけど」

頬を赤らめながらちらちらと俺を窺う丸井は、下手すりゃさっきの転校生より男をそそるものがあるというか…今後お前を守るのは女からじゃなくなる予感が…。

「いや、結局好きなんか無理なんかどっちじゃ」
「煩ぇ!」

はいはい、かわいいかわいい。


お題:207β様より


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