男主短編 | ナノ




「雷蔵くーん」

僕が雷蔵君の名前を呼ぶと、雷蔵君は空笑いと苦笑の間のような、明らかに迷惑ですという表情で振り返る。
うん、雷蔵君、それって結構酷いと思うのだけれど、自覚あります?

「雷蔵君、好きだよー」
「…図書室は私語厳禁だから」

あはは、そんなにあからさまに視線逸らして会話ぶち切られたら、さすがの僕でも泣いちゃいそう。ああ、てか泣く。悲しいな畜生。

「雷蔵君、僕のこと嫌い?」
「…別に」
「うん、せめて視線を合わせて欲しいかな?」

そしていっそ一思いに嫌いだと言って欲しいかもしれな、いやいやいややっぱりそれは本当に泣いちゃいかねないので取り消し取り消し!
笑顔な僕とは対称的に、雷蔵君の表情は堅い。奇跡的に表情は作り笑顔と言えなくもないような引きつり顔をしているけれど。

「苗字君って、さぁ…」
「ぎゃんっ!名字に君付け!超他人行儀!」
「……やっぱり何でもない」
「えええ、やめてよそういうの。途中でやめるの性格悪いよ雷蔵君ー」
「苗字君よりは性格いいつもりだよ」
「ぎゃんっ」

雷蔵君のこの僕への扱いの酷さ、いかなるものか…!雷蔵君、皆には優しいじゃんか。もうちょっとぐらい僕にも優しくしてくれてもさぁ…ぐすん。
僕がやけになって半ば愛情表現、半ば嫌がらせに雷蔵君に抱き着くと、光速の速さで引き剥がされた。もといぶん投げられた。本棚に当たり分厚い本が何冊も僕の上に落下。結構重症である。
…名前は強い子。泣かない…泣かないんだからなっ!雷蔵君のばかっ!

「触らないでよ」
「うっ…ひっ…く…うぇ…っ」
「…っ!ちょ、馬鹿!泣かないでよっ!何で、ああもう…ッ!」

僕が堪えきれず泣き出すと、雷蔵君は声を荒げて壁を殴った。いやぁあああ!雷蔵君怖いよぉおおお!何でこんな僕にだけこうなのもう僕が何したっていうのいっそこういうプレイなの雷蔵君ドエスなのやだやだ僕ドエムにはなれないよぉおおお!

「何で君はそうなの?!」
「雷蔵君が冷たくするからだよばかぁあああ!もうやだ!ばか!ばぁか!雷蔵君なんて嫌いだもん!いいもんいいもん!三郎にでも泣きつくもん!」
「君がそうだから、僕が努力してるってのに…っ!お前どれだけ性格悪いんだよッ!!」
「ぎゃあぁあああんッ!もう口調すら優しい雷蔵君じゃなくなったぁあああ!」
「っだから…!ああもう嫌だ!」

泣きわめく僕をさらに突き飛ばした雷蔵君に、また僕は怪我を増やした。だけど加害者な雷蔵君の顔を見た僕は固まった。
え?え?何で雷蔵君も泣きそう?

「苗字君、本当に何なの。一人じゃ満足できないくせに、次から次へと増やして増やして一人も減らさないで増やし続けて」

僕は泣くのをやめて、雷蔵君を凝視する。それから魂でも抜け落ちたようにパクパクと口を動かした。

「だって、寂しい。愛してほしい」
「一人にめちゃくちゃに愛されればいいじゃない」
「やだ。みんな、好きだもん」

きっと僕はおかしい。それぐらいはさすがに僕も理解している。
僕の好きは気持ち悪いのである。そしてそんな好きを僕は振り撒く。所構わず振り撒きまくる。だから雷蔵君に嫌われたのだろう。

「苗字君って本当に自己中で最悪」
「嫌い…?」
「大っ嫌い」

ふわりと唇に柔らかい感触。

こうしてまた今日も僕は、日替わりの愛で満たされるのである。


お題:hakusei様より


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