口吸いのたった一回で溶けてしまうような恋でした。
夜明けには見えなくなってしまうような恋でした。
何度ともなく貴方の見えないところで涙する恋でした。
だけどやめるなんて選べないような、恋でした。
「大人になるって、何なんだろうね」
誰もいない外を見下ろしながらぽつりと呟いた僕に、仙蔵が僕を見た。
仙蔵には見られただけで何もかもばれてしまっている気になる。
例えば僕が一年生の頃からずっと土井先生を好きなこととか。
例えば僕が告白して土井先生と現在交際中なこととか。
例えば、誰よりも土井先生が好きなのに今苦しくて仕方なくてわからなくてわかりたくなくて吐きそうで死にたくてだけど死にたくなくてやっぱり好きで、すきで、やめられなくてやめたくなくて殺されたくて愛していて愛していて愛していて、わからない。そんな僕とか。
「そうだな…私が思うのは、理性を持つことだな」
「理性かー…」
確かに、そうかもしれない。
二つの僕が納得した。一つの僕が血を吹き出すのを、僕は黙って見ている。
「一緒がいいけど、理性は疲れるよ」
「…理性を持たないのはただの獣だ」
「なら、獣でいい」
僕だけでも獣になれたら何か変わっただろうか。うん、だって馬鹿みたいに何も知らないで幸せでいられた。
見下ろす先の外には誰もいない。
「名前、一つ言っておく」
「何ー?」
「三禁を忘れるな」
こんな時だけいやに優しく僕の頭に手を乗せどこかへ歩いて行った仙蔵に、涙が流れる。
もう遅いよ、止められないよ。
それでも僕は忍たまで、もうすぐ卒業して忍者になる。勤め先も決まっている。
だから、答えは一つだけ。
「土井せーんせ!」
いつものように駆け寄って抱き着くと、土井先生はいつもと同じ優しい笑顔をくれる。
そんな大人の笑顔が、僕は昔から大好きで、、大嫌いでした。
「土井先生あのね、僕就職先決まったって言ったでしょ?」
「ああ、タソガレドキだろ?凄いな」
「うん、だからね…」
言おうって決めていた言葉が、口を開いても出てこない。いやだ。やめて。
僕は子供過ぎた。
「土井、先生はさ、」
「うん?何だ?」
「僕のこと…すき?」
「当たり前だろう」
いつもの優しい笑顔でそう言った土井先生に、唇を噛み締める。
僕は二つなんかじゃない。最初から一つで、元々僕はわかっていた。ただ、わかりたくなかっただけ。
まだ、わからないふりをしていたかった。それだけ。
「土井先生、別れましょうか」
やっと言えた。
…言いたくなかったけど。
訳を問う土井先生に、色んな嘘を吐いた。
別れるのは僕のためで、僕も頑張るから土井先生も頑張って欲しくて、僕はもう忍者だから色恋はよくなくて、貴方を危険な目には遭わせたくなくて。
なんてね、ぜぇんぶうそ。
「大人になんて、なりたくなかったのに、なぁ…」
僕は全部知っていたから、辛いこと早めに終わらせたくて。
結末は最初から決まっていたから、悲しくても始めたのは僕のせいで。
土井先生、アンタ優し過ぎる。
優しくて大人で、ひどいひとだ。
僕のこの恋はきっと、
R指定。
お題:
hakusei様より