男主短編 | ナノ




メアリーグレイのせんべさんの衝動サンという短編の続編書かせて頂いたものです
※夢というかホラーっぽい



警察就職したまではいいけど、本庁から飛ばされたってだけでもそれ相応に俺ショック受けちゃうのに、キチガイ野郎足立透と同じ稲羽に赴任と解った瞬間神を呪いましたね。
そもそも高校時代猫殺ししてる所目撃した時点で運悪過ぎ。何も知らない同級生A立君として記憶にも残らない存在で居て欲しかった。俺の前世め神に何をした。

「堂島さんだけが俺の癒しです」
「何だお前気持ち悪ぃ」

本気でドン引きした顔をされた俺は、仕方なく書類処理に戻った。
こんな田舎に大事件なんて起こるわけもないので、俺はさり気なく足立を避けつつちっちぇえ悪事を取り締まり、さり気なく足立から隠れつつ堂島さんと親睦を深めたり、さり気なく足立と距離をとりつつ書類に勤しんでいる。
俺は足立と再会したあの日から足立の前ではとにかく興味を引かれない空気のように振舞って行動している。精神疲労が酷い。

そうして俺が大人しく書類処理を行っていると、一本の電話が鳴った。
悪戯じゃねぇだろうなと電話に向かって一瞬威嚇した後電話をとる。

「人が…っ!人が電柱に刺さってるんです助けて!!」
「……は」

テンプレな台詞や適切な対応が頭から吹っ飛んだ。
そんな俺を無理やり退かすように堂島さんが受話器を奪い取る。堂島さんの冷静な対応を聞いているうちに、冷や汗が流れる。
マジの、殺人事件らしい。殺人と決まってない?いやいやだって明らかに。しかも電柱に刺すとか何それ犯人異常思考にも程が――

一瞬、異常思考と考えたせいで足立透の顔が俺の頭を横切った。

…お、落ち着こうぜ。足立だって腐っても昔猫を殺してても警察の一員なわけだし。足立の更生した姿を想像出来ない俺の脳の貧弱さが悪い。
今からそのまず間違いなく死んでいる電柱の人の元まで行くパトカーに足立も乗るって聞いて死体を目にした足立が、いつものあのへらへらした笑いで、目だけ蔑むように死体を見る想像しか出来ない、俺の脳の貧弱さが。

「ええ、死体ですか?!うわー、何でまたこの平和な田舎で。ヤダなぁ…」
「ヤダじゃねぇんだよ!それにまだ死んでると決まったわけじゃねぇ!ほら急ぐぞッ!」
「電柱に刺さってるとか、絶対死んでるじゃないっすかぁ…」

不本意ながらその点は足立と同意見だなと思いながらも、俺達は現場に向かった。
殺人犯がまだ近くに居るかもしれないから気を引き締めようだとか、そんな事を考えるよりすぐ隣で「あーなんか今から気持ち悪くなってきたかも。苗字君は大丈夫?」とかぺらぺら話しかけてくる奴の方が危機感感じて気持ち悪い俺は、警察失格かもしれない。


現場に着くと、丁度電柱に刺さっていたらしいそれを降ろし運び終えた所だったらしく、救急車が帰って行った。案の定救急車はもう必要ない状態だったようだ。
堂島さんを先頭に、俺が足立が後ろに居ると思うとその気配だけで精神をごりごり削られるので足立の少しだけ後ろを歩いて行く。

「苗字君、本当に平気なの?」
「余裕ってわけじゃないけど…まぁ、なんとか」

普段からアンタに強制的に精神修行させられてるんで。
にしても足立、青い顔してんな…演技にしか見えないわけだけど。でも演技で顔青く出来るか?いい加減俺も足立に怯え続けるこの生活から解放されたいんだが。

足立とどこか上の空に会話しているうちに仏さんの所に着いたらしく、先頭の堂島さんが足を止める。
と、ほぼ同時に、ぐるりと足立が振り返った。


何、何何なに、何だよ、



「…は、く!!」

足立は本当に気持ち悪そうに、今にも吐きそうに走って行った。


俺は、震える手を握り締めて反射にも近く足立を追い掛けた。
背後から堂島さんの怒鳴り声が聞こえたけど、説教ならいくらでも後で聞くんで今は追い掛けさせてください。
今追い掛ければ、はっきりする気がするんです。


意外とすぐに見つけた足立の後姿を、建物に隠れて凝視する。
立ち入り禁止の外側まで逃げたらしい足立の足元には嘔吐物。大して走ってもいないのに肩で息をする様は具合の悪い人間のそれで。

「あ、はは。だよな。そうだよな。普通そうだよな。だってそんなまさかだもんな」

吐く演技とか普通出来ねぇから。つまり足立は無実無罪!いや、今まで一度の狂気的行動で疑ってきちゃって悪かったね!は、はは。

俺は、すっきりした所でさぁ堂島さんの所に戻ろうと踵を返し、足立に背を向けた。

「一瞬あの死体見ながら笑ったとか、そんなの俺の見間違い。猫殺したからって人間殺すわけないって。そう、そうに決まって…」
「あれ、なんだ。苗字君知ってたんだ」


その声からは具合の悪さなんて全く感じず、それはつまりやはり全ては、、


振り返りたくはなかった。


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