さて、大きく息を吸い込んでー…!
「あ゛ー、ぁー、ぅあー…っけほ」
…いや、発生練習なんだけど、喉が…喉が死んでる。俺の美声が…!なんだこの声、掠れすぎだし。
六年い組、苗字名前。風邪です。
「名前、何してんだ?こんなとこで」
「ぁ゛ー…」
目の前に突如、文次郎が現れた。ちなみに現在中庭である。
…いつもなら、「何テメェいきなり濃い顔俺の目の前に突き出してくれてんだ、きもんじが!俺が何していようがテメェには一切関係ねぇし、誰が教えるか!テメェは算段にでも話し相手になってもらってろや!」ぐらい言うところなのだが、喉が痛いので割愛する。
「…え、お、おいどうした?!具合でも悪いのか?!」
「…」
確かに喉が悪い故に今日は毒舌を吐いていないわけだが、そう露骨にされるとイラッとくるな。その通りだが、他人には言われたくない。
だが会話でその主旨を伝えるには俺が喉を酷使せねばならないため、やむなく俺はしかめっ面で自分の喉を指差した。
「?喉?」
頷く。
「喋れないのか?」
…んー、まぁ頷く。
にしても困ったな。これでは授業に支障が出る。
「どうした?喉が痛いのか…?」
喉は常に痛いわけだが、文次郎がいやに心配したように聞いてくるため、俺は首を振った。たぶん授業のこと考えていた俺のオーラがしょぼんとしていたんだろう。
「…できる限り、俺がお前の生活を助けてやる」
「!」
なんだ、文次郎。お前今日はやけに気が利くじゃないか、きもんじのくせに!鍛練馬鹿のくせに!ちょっと見直したぞ!
だが声が出ないため、やむ無く俺は笑顔でいい心がけだぞ、と意志疎通をはかる。
「…っ!お、お前!」
「…?」
なんだコイツ、いきなり赤い顔しやがって。マジキモいんですけど。気持ち悪いんですけど。すーぱーきもんじ降臨。
「頼む、このまま喋れないでいてくれ!話さなければお前かわいい…っ!」
俺の上段回し蹴りが炸裂した。