一年生の頃、私は学級委員長委員会に入る前に、先輩達から言われたことがある。
「二年の学級委員長委員、苗字名前には近づくな。絶対!」
突然歩いてきた数人の先輩――当時の確か四年生――にそんな事を言われ、教室待機中の私達は困惑した。
「何故ですか?」
手を挙げ発言した一年生の一人、当時の久々知に、先輩達は神妙な面持ちでお互いの顔を見合わせた。
「アイツはな、悪い奴じゃない…ただ、」
「ああ、関わらないで済むなら関わらない方が良い。一度関わったら…蟻地獄みたいな奴なんだ」
要領を得ない言葉を残し、先輩達はその場を去った。
私は子供ながらに、先輩達の言葉を節制だと思っていた。だって、悪い人ではないんでしょう?関わろうが関わらなかろうが、私の勝手だ。
その日、私は学級委員長委員に選ばれた。
「あ、一年生?俺ね、二年の苗字名前。よろしくな!」
「鉢屋三郎です、よろしくお願いします」
一、二年生の険悪な空気の中で、苗字先輩だけは優しく親切な、良い先輩だった。
あの忠告はやっぱり節制、もしくは妬みからのものだったんだろう。私はそう考え、苗字先輩と仲良くなってしまった。
あの頃の私に言いたいことは一つだ。
いいから逃げろ。
「三郎、どうしたー?」
「名前先輩の今までの所業と罪状、非人道的行いについて思い返していました」
「何だそれ」
ゲラゲラと笑う名前先輩を恨みがましい目で見る。名前先輩が視線に気づき此方を見た瞬間、私は意味もなく斜め下に何か気になるものでもあったかのように視線を逸らした。
「三郎が視線さえ合わせてくれない…俺、悲しい。雷蔵に慰めてもらおう」
「や め て く だ さ い」
よりによって雷蔵を毒牙にかけるな、と睨めば、この最低な男はじゃあ構って、なんて笑ってみせた。
苛立った私は、名前先輩を食べようとするように、乱暴にその唇に食らいつく。最初は驚きされるがままだった名前先輩も、すぐに答えるように私の口内に舌を這わせた。
名前先輩のあまりの舌使いの巧さから、その何十人もの経歴を披露されているような気分になって、無理矢理顔を離す。
「っぇ、三郎気まぐれすぎる。振り回すな」
「嫌味ですか、嫌味でしょうね」
「自己完結!」
また、何が楽しいのかさっきまでの行為がなかったかのように名前先輩はゲラゲラと笑った。
この人は人を苛立たせることにかけては天才だと思う。自称、他称共に天才のこの鉢屋三郎が認めよう。
「嫌いですよ、名前先輩」
「そっかぁ」
名前先輩を押し倒しながら言った私に、名前先輩はその矛盾には突っ込まず、私の首筋をべろりと舐めた。
「三郎は嫉妬しいで寂しがりだな」
煩い。だったら、嘘でもいいから一度でも好きだって言ってみせてよ。