俺は、彼女の名前を覚えていない。だけどただ忘れているのとも…少し違う。

きっと例えばアイツが、あの人が、あの子が、彼女の名前を呼んだとしても、俺はそれが彼女の名前だなんて気づかないだろう。


だって俺と彼女は絶対的に交わらないから。


期間限定恋物語




誤解しないで欲しいんだが、俺と三郎は流れに任せて一夜を共にした――なんてことは、ない。
ただ触れ合うだけの接吻をして、何故か三郎とはお試し恋人になった。…いや、何故こうなった。お試しってなんだ。

「だって、愁矢は最近まで…その、立花先輩と付き合ってたし、すぐにまた恋人できたら愁矢が悪く言われそうで…私が嫌だ」
「…お前、優しいな」
「う、煩い!」

顔を真っ赤に染めて俯いた三郎には、俺がどんな顔してるかなんて見えないだろう。
…ああ、お前はあの頃から、好きな奴には随一優しい男だったよ。

「てか、せ…立花先輩を忘れさせるって、どうやって?」
「私の方が好きにさせる!」
「ほぅ…どうやって?」
「え」

意地悪く笑った俺に、三郎はきょとんとした表情を浮かべた後、わたわたと無駄に手を動かし、深呼吸し、キッと俺に向き直った。

「目瞑って!」
「おう」

なんだ、接吻でもする気だろうかと思い目を閉じる。三郎が近づいてくる感覚に、予想通りかなぁとぼんやりと考えた。
ふわり、額に柔らかいものが当たり、それから抱き締められる。

「…ん?」
「わ、私は愁矢が大好きだから、愁矢は絆されればいい」

ぎゅうぎゅうと三郎に抱き締められ、俺は笑った。

何コイツ、かあいい。




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テーマ「推しとの恋」
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