俺は自分でもどうしようもなく、生まれつきの気狂いではあったが、鈍感ではない。
ゆえに、長い時間共に過ごせば相手のだいたいのことはわかる。
つまり、気づきたくなくても気づいてしまうのだ。
不破と会話した翌日、俺と仙蔵は二人裏々山の景色の綺麗な一角――確か三年の頃に二人で見つけて、それからは秘密の逢い引きの場所となった――で、逢い引きしていた。
俺は風が吹く度揺れる目の前の艶やかな黒髪に目を細めながら、俺も仙蔵もしばらく無言でただ隣り合って手を繋ぎそこにいた。
「…愁矢、」
「んー…?」
「決めたのか?」
悲痛そうに揺れる瞳で聞いてきた仙蔵に、俺は笑みを返す。
最初から、わかってたんだろうなぁ。相変わらず、俺より頭いいんだ。はぁ…まったく、世知辛い。
ゆっくりと、俺は仙蔵と繋いでいた手を離し、自分の膝の上で拳を作った。
「うん、ごめん。別れよっか」
「っ…やっぱり私じゃ、アイツには勝てない?」
「そうじゃなくて…いや、ごめん」
この世界で、一番泣かせたくないというぐらいには好きな人が静かに泣くのを見て、俺は唇を噛み締めた。ごめん。謝るしかできなくて、ごめん。自分勝手でごめん。ごめんな…?
「いやだ。なんで…?私は、アイツが嫌い。大嫌い」
「俺は、好きなんだよ」
苦笑すれば、憎しみのわかる顔で仙蔵は俯き、それから力無く笑った。
「私のこと、わかる?」
「…うん」
「そっか。また同じ?」
「いや、俺が幸せになれる」
「なら許してあげる」
「ありがとう、××」
今世には存在しない名前を言って無理矢理笑い、俺は仙蔵に背を向けた。涙が出た。
今世で泣くのは、これが最後。