時は巡り、俺と三郎達は五年となり、仙蔵先輩は六年となった。
さてと、そろそろ始めよう。彼女のための物語。
主役は俺で、ヒロインはアイツ。傍観でしたらお好きにどうぞ。
ただし、邪魔をするなら容赦はしません。
ふと夜、目が覚めて布団から起き上がった。隣を見れば眠る仙蔵。そういえば昨夜は激しかったもんなぁ。
五年い組、保健委員の瀬戸愁矢。お察しかとは思うが、未だに仙蔵と付き合ってます。三郎への当て付けで付き合ってると思ったら、意外とそうでもないことが判明したのはもう何年も前のこと。
「仙蔵、」
さらりと触り心地のいい髪の毛に目を細めつつ、頭を撫でた。安らかな寝顔は変わらなくて、俺は淡く微笑み部屋を出ていった。
五年長屋の自分の部屋に帰るべく歩いていると、ふわふわの見慣れた茶髪が見えて足を止めた。
「三郎…いや、不破か」
「こんばんは」
「ああ、こんばんは」
独特の柔らかい笑顔に俺も笑顔で返したが、少なからず心中は動揺していた。
だって、俺と不破の普段の遭遇率の低さと言ったらいっそ作為的なものを感じる程なのだ。確かに俺も不破を結構避けていたが、それでも四年以上同じグループで行動しながらあの低さはいっそ異常だ。相当縁がないのだろう。なんて戯言。
「どうした?こんな夜更けに」
「うん、瀬戸に一個質問したいんだけど、いい?」
「わざわざこんな時間に?」
「わざわざ、こんな時間に」
風が吹いてお互いの髪が揺れる。三郎と同じ、正確には三郎が真似している不破の髪をぼんやりと見ながら、俺は頷いた。
「瀬戸はさ、三郎のこと好き?」
「ああ」
「恋愛感情は?」
仙蔵と俺が付き合っていることは学園中の噂になっているだろうにそんなことを聞いてくる不破に、胸がざわつく。
「不破は、三郎のことどう思ってんの?」
「んー…幸せになってもらいたい、かな」
その瞳には確かに恋情の類いは見られなくて、俺は安堵した。なんだ。
「それで、瀬戸は?」
「そのうちわかるよ」
だから黙って最後まで見ててくれよ、不破さん。