言葉にすれば、簡単な話でした。
まず、深く愛し合う男と女がいました。
男はしかし、ある日本当の運命の相手を見つけ、女から離れていきました。
女は嘆きました。
女は苦しみました。
女は憎みました。
女は諦めました。
女は村の生け贄選抜に、自らその手を挙げました。
驚愕する父に疲れた笑顔を向け、怒る母に目を閉じ、やめてと泣くかわいい妹にごめんと言い、祭壇に向かいました。
生きる意味が、もう無かったのです。
そうして、"彼女"は――
「男は悪くない、なんてどうして言える」
見晴らしのいい、名前も知らぬ山にて俺は、苦笑混じりに呟いた。
どうして、彼女の悲劇から顔を背け、偽善的になれようか。男はただ別の女を好きになっただけ?
だって、男が隣にいれば彼女は生きていた。
嫌いだから憎いのではない。
愛していたから、憎いのだ。
「あ、はは。不破さんにも間接的に嫌がらせできるや」
今や俺と同じく男となった、三郎の選んだ運命の相手の顔を思い浮かべ、笑った。
幸せに。三郎を幸せに?
誰がするか。
「仙蔵は、でも、また泣くだろうな」
俺のかわいいあの子。いつの時代も俺の味方だった、あの子。
それは心苦しいけれど、あの子のためだとしても俺は、止まれはしない。
「ねぇ三郎、」
くるりと振り返る。
ああ、呼び出し時間ぴったり。
きょとんと、今から何が起こるかなんて想像もしていないだろう顔に、わらう。
「これが私の、復讐よ」
ふわり、叫び声。
空気抵抗。
がっ、がん、がっががが、びっ、がんっ、がっ、ぐしゃ。
ばいばい。