シラナワ | ナノ




あの後、目は決して開けずに鶴丸の言葉を頭の中でぐるぐる回しながら、中々居なくなってくれない鶴丸に私も動けず困っていると、通り掛かった光忠が助けてくれた。
さすが光忠、私の近侍。お洒落イケメン!伊達男!レディファースト!意外にナイーブ!


「主、鶴丸を見て気分を悪くされたと聞いたのですが」

助けて光忠。もうどうせ英語とかカタカナ言葉とかあんまりわからないだろうなんて調子に乗って、意外にナイーブなんて言わないから。
まさか短刀の子達に教えたカタカナ言葉が本丸中に広まってるなんて思わないじゃん。それどっちかと言うと悪口じゃない?なんて冷静に切り返されると思わないじゃん。
いや、すみません。わからないと思って適当に褒めてるっぽい事いっぱい言おうなんてした私が全面的に悪いんです。だから今すぐ来て目の前の子をなんとか…。

「主?どう致しました?目障りな鳥でも何処かに居ましたか?」

長谷部が笑っていない目で腰の刀に手を掛けながら問う。
あ、これすぐ対処しないと鶴丸斬られるやつだわ。いくら鶴丸が御神刀でも、何ヶ月も前線張ってた、人間姿の慣れやら刀の扱いやらが高レベルな今の長谷部に掛かればイチコロだ。

「大丈夫!持病の嘔吐癖が偶々最近起こりやすいだけなの!」

何が悲しくて私は持病で嘔吐癖があるなんて自分の精神ポイントを削る嘘を吐かなきゃならないのか。そうしないと長谷部がすぐ武力解決しようとするからだね、仕方ないね…。

「そうですか、それは心配ですね…。ですが、もしアレが何かした際にはすぐ教えてください」

いや、教えないよ?教えたら長谷部、鶴丸の事斬るんでしょ?

「織田に居た頃、長谷部も鶴丸と一緒だったんだよね?もしかして仲悪かった?」
「そうですね…あまり良いとは言えませんね」

私の前だからオブラートに包んでるけど、言い方と顔が完全に俺は嫌いって言ってるわこれ。感情を隠す気無いわ。
さすが問答無用で斬る態勢だっただけの事はあるな…。


「お、居た居た!」

その声が聞こえた瞬間、私は蒼ざめた。奴だ。
何故、長谷部と居る時でも平気な調子で声をかけて来…ちょっと待ってこの足音駆け寄って来てない?!今目の前に長谷部居るんだけど、私瞑目して大丈夫?!鶴丸斬られない?!

「っと、長谷部じゃないか!久しぶりだな」
「…ああ。あなたは変わっていないな」

結局目は瞑った。
目を開けていた方が大惨事になるのは想像に易いからだ。
長谷部が素っ気なく答える。とは言っても、長谷部は主の私以外に対してはまず常にこの態度なので、特別態度が悪い対応では無い。むしろお前ではなくあなたと呼んだ辺り、嫌いそうな割りに尊敬している所もあるのかもしれない。同じ刀として。
長谷部が今どんな顔をしているのか少し見たいけど、そんな理由で目を開けはしない。

「…長谷部、主命です。急に目を使いたくなくなったので、私と手繋いで自室まで連れて行って」

我ながらアホな言い訳だけど、しかし長谷部にはそんなアホな理由でも問題は無い。理由を言って、主命を下す。それが重要だから。

「お任せあれ」

長谷部は快い了承の返事と共に私の手を取った。
私は長谷部の生い立ちに同情している。この子の言動の端々には、自分はたくさんの仕事を果たしているだから良い部下でいるから、だから愛して捨てないで、そんな寂しい子供心が見える。

「君は俺にだけ冷たいな」

背後から拗ねたような鶴丸の声がした。だから白くなく現れてくれたら普通に話ぐらいするのに、とは長谷部の前では言えない。

「まあ、特別って事か」

どんなポシティブだ。
勝手に自己完結された結論に抗議したいけどやっぱり今は出来ない私は、頬を引きつらせる。

「でもこれじゃあ面白くないからな、後でヒントをあげよう」

え?
意味不明な言葉に私は戸惑って、思わず目を開け振り返った。そこに白い彼は既に居なかった。言葉とは裏腹に楽しそうなくすくすという笑い声だけが耳にこびりついた。



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