シラナワ | ナノ




短刀は意外にも作られた年代を年齢換算するなら刀剣達の中でも歳上な子達が多い。ただし、見た目に精神年齢が引っ張られるからか皆見るからに中身も子どもだけど。

「だけど薬研君だけはさ、明らかに中身大人だよね?見た目に引っ張られてないよね?」
「大将、そんな話しに来たんじゃないだろ?」

それは確かにそうなんだけど、薬研君の芝居がかった首の傾げ方を見ているとはぐらかされた気がしてならない。
いや、薬研君の事は他の短刀の子達と同じく可愛いと思ってるんだよ?それ以上に男前だと思ってるけど。
私は仕方なくこの話を掘り下げるのはまたの機会にして居住まいを直し、真剣に薬研君に向き直った。

「私、何で白が嫌いなんだと思う?」
「悪いが俺は知らないし、知る訳ねぇな」

正論だ。そうなるべくして返って来た答えだ。むしろこんな馬鹿な質問にちゃんと答えを返してくれた薬研君は優しい。

「今更なんだけど、吐く程嫌いなくせにその理由も知らないってやばいよね?」
「俺の白衣でも吐いたからなぁ」

はい、その節はご迷惑と精神攻撃をぶっ掛けてしまい誠に申し訳ありませんでした。しかも私の意を汲んで周りにそれを吹聴しないでくれたご配慮は、つくづく身に沁み入ります。
ちなみに私がこの相談のようなものを薬研君に持ち掛けた理由は、薬研君が一番医療とかそっち側に精通していそうだからだ。

「昨日私、鶴丸君を新しく降ろしたじゃない?それでたぶん広まってないと思うんだけど、」
「吐いたと」
「ふふ…いい加減迷惑だと思うから、次白い子が来る前に治したいです…」

ふむ、と明らかに大人な態度で薬研君は自分の顎に指を添え考え始めた。
一度に一つの事しか考えられないタイプじゃないと思うので、私は私で話を続ける。

「なんか白に嫌な記憶でもあると思うんだよね。でも、私此処に来る直前の記憶以外はばっちりある訳よ。つまり例えば、交通事故でライトが視界一面になった瞬間に神隠しでこっち来たとか、そんな感じかなぁと思うんだけど…」
「よくわからねぇんだが死にかけたって事か?」
「あー…車知らないか。うん、だいたいそんな感じ。でもこの推理だと、私が痛みを感じたわけでも無く助かったくせにゲロゲロする精神薄弱残念小娘って事になるんだけど」
「そんなもんじゃねぇのか?大将の時代はこっち程死が身近じゃねぇんだろ?」
「うーん、それはそうなんだけど…」

自分で仮説立てておいて難だけど、なんか違う気がするんだよね…毎度首を絞められてる感覚がするのも引っかかるし…。

「大将自身が違うと思うなら違うかもな。大将の時代の人間が此処に居ない以上、思い出すには大将自身の記憶と感覚頼りになる訳だしな」
「そっかー…」
「ちなみに、大将は此処に来る前の事は何処まで覚えてんだ?」
「えっとね、」

確かあの日は学校休みで友達と遊ぶ約束をしてて…待ち合わせ場所の駅に行って、それからカフェでお茶した後話の流れで何処かに行く事に決め……あー、ダメ。これ以上は思い出せない。
何の手がかりにもなりそうに無いなぁ。

「でも、最後は白かった気がする」

私のあの世界での最後は、確かに白の記憶がぼんやりとある。だからこそさっきは交通事故のライトなんて仮説を立ててみたんだけど。
けどこれもなぁ…私が此処に来たのが神隠しだとしたら、神隠しの時視界一面が白くなるものなんですと言われれば、そうなんだとしか返せないしなぁ…。他の神隠しにあった人の体験談なんて聞けないんだし。


「なんだ、俺の話か?」

いきなり天井から声が聞こえ、私ははっとして上を向いた。このパターンには覚えがあるぞ。後、もうアナタの話は終わったぞ。
しかし、私が余裕ぶっこいて居られたのもここまでで、飛び降りて来た彼のその姿を見た瞬間…急激に血の気が引いた。

重力に従って、白がはためく。
それは羽織るその神様の容貌と相まって非常に美しく――

私は吐いた。


「羽織りだけでも駄目だったか」
「そういう実験は…前以て言ってからして頂きたく…」

それ、薬研君の白衣アウトだった時点で私は把握してたから。今私が吐いたのとてつもなく無駄だから。無駄吐きだから。

「俺達の迷惑より前に、大将このままじゃ鶴丸の旦那に逆流性食道炎にされそうだな」

薬研君、それ笑えねぇわ。



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