シラナワ | ナノ




「この服寛ぎにくいなぁ」

たった数時間前に私が降ろした真っ白な付喪神は、光忠の真っ黒でカッチリした服があまりお気に召さないらしく、座布団の上で胡座をかき膝に乗せた肘で頬杖をつきながら口を尖らせた。

現在、光忠に理由ぐらい自分で話すんだよ、と保護者のように嗜められたので私は鶴丸君と二人で向かい合っている。
しかし、たった今言った通り私と彼は数時間前が初対面だ。友達の友達みたいに話を又聞きした事こそあるけど、いきなり二人きりはぶっちゃけ気まずい。しかも私初対面で痴態見せたしね。第一印象吐かれたって悪印象しかあり得ないよね。

「あの、鶴丸君は私に気を遣ってその服借りてくれたんだろうけど…元々の服に何かポリシー…えっと、信念?深い意味はあったりしないの?」

とりあえずいきなり重い話から始めるのも難なので、ジャブから入ってみた。
鶴丸君はきょとんとして、じっとその明るく神々しい金の目で私を見る。性格は未だしも、見た目が美し過ぎるからか何だか居た堪れない。

「鶴丸でいいよ、君はもう俺の主なんだからな。何なら国永でもいいぜ?」

悪戯っぽくからかうように続けられた言葉には、曖昧に微笑んだ。仲良くなったら名前で呼ぶのも悪くないけど、私そんなにフレンドリーな質じゃないから今はちょっとまだ。そのうちって事で。

「で、質問の答えだが。俺の着物が白いのはその方が鶴みたいだからだよ」

…鶴?え、鳥の?
鶴丸君は笑顔で私を見ている。どうやらその答えで間違いは無いらしい。
鶴丸だから、だよね?うーん…刀だし神様だし、人間よりも名前の意味が強いのかな?でも光忠とか長谷部とかは自分の名前あんまり好きじゃないらしいし…。
いや、よくわからないけど意味があって着ていた事の方が問題だ。私が初っ端から問答無用でその意味を剥奪するのは、責任とか罪悪感とかでちょっとご遠慮したい。

「…あの、真っ白がダメなだけなので多少は白くて大丈夫だよ?」
「ん?ああ、成る程。そりゃそうじゃないと普通に生活出来ないもんな」

そうそう。そもそも鶴丸君の髪も白いし、光忠の服も中のシャツは白いし、こう小物程度の白なら問題無いんだよ。
白い壁見ると吐くけど。つまり病院も学校も大抵の施設にもサングラス無しじゃ行けないけど。うん、こりゃ普通の生活が出来ていたとは言い難い。

「じゃあ少しずつ俺も白に戻して克服だな」

鶴丸君は私を励ますようににっと笑った。鶴丸君がポジティブなタイプで良かった。山姥切君との初対面からのしばらくギスギスしたあの空気は忘れたい。ちなみに山姥切君には今黒い布を被ってもらっています。
しかしそれにしてもその克服方法は、昔玉ねぎ嫌いだった頃、お母さんにハンバーグ作る度玉ねぎの割合を段々増やされて食べられるようになったのを思い出すな。

「それで、何で白が嫌いなんだ?」

あ、向こうから聞かせてしまった。私はあー…と苦笑いして、それから渋々重い口を開いた。

「わからない、んだよね」
「わからない?吐く程嫌いなのに?」
「うん、覚えていないの。それに、此処に来た理由もわからないで審神者をしている」

気付いたらこの世界、この時代に居た。幸い審神者の才能があるとかですぐ都合良くも政府の人にスカウトされたので、辛うじて酷い事にはならずに済んだ。
ただ、この世界に来てから白が嫌いになったのに気付いた。見ていると首を絞められている気分になり、吐く。
だから正確には、私はこうなってから病院にも学校にも大抵の施設にも行っていないし、審神者をするにあたり与えられた本丸を黒く塗り潰してまるで敵の本拠みたいにしてどうにかこうにか暮らしている。

「記憶喪失か、成る程な。そいつは驚いた!」

私の説明を聞いた鶴丸君は、そう楽しそうに笑った。
あれ?意外に無神経さんかな?楽しい話じゃなく、わりと深刻な悩みなんですけどね?



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