もやもやした時はとりあえず寝よう。無論、睡眠の意味ではなく。

私がジェームズを捜して校内を徘徊していると、綺麗なプラチナブロンドの髪が視界の隅に映った。
思わず勢い良く振り返れば、目が合う。

「…相変わらず、目立ちますね」
「それが久しぶりに会った恋人に言う第一声か?」
「誰と、誰が、恋人ですって…?」

変わらない男に若干の呆れと共に睨めば、さもおかしそうにくすくすと笑われた。
結婚ぐらいじゃ、この男はどうともならないか。いや、そんなことはそれこそ男の妻となった彼女よりも私の方がよく理解しているぐらいだ。

「悪かったよ。風の噂で聞いた。君は、確か…そう、何だったかな?ブラックの異端児の彼と付き合っているんだったか」
「残念ながら、付き合っていません。…本当に、性格の悪さも変わっていないようで安心しましたよ」
「それは良かった」

相変わらず華麗に皮肉をかわした男に、何とも言えない心境で次の言葉を飲み込む。シリウスの名前を、アナタ程頭のいい人が忘れるわけないでしょうが。
もういいです、と私は当初の目的を口に出した。

「ちなみに、ジェームズ・ポッター見ませんでしたか?」
「アレならリリー・エバンスと中庭にいたが」
「あー…」

それなら誘うわけにはいかないな。まいった。ただでさえこの人に会ったせいで昔を思い出してもやもや感が増したのに。

「二股か?」
「どっちとも付き合ってませんから」

ただ、微妙に当てはまっていなくもない言葉なだけに、居心地が悪い。
ああもう、第一何で私はまたこの男と話してるんだか。人通りの少ない廊下で会ったのは、幸か不幸か。
私はいい加減茶番は終わりだとため息を吐いた。

「で、今日はホグワーツに何用ですか?マルフォイ先輩」
「以前のようにルシウスでいいよ。息子が産まれたからな。今日は、通わせる学校の下見に」
「…数年前まで通っていた母校をわざわざ、下見に、ですか」
「今の嘘に意味はない」
「でしょうね」

ある一定の線より頭のいい人は、どこかひねくれた人が多いと思う。まぁ、私はホグワーツに通う前の年頃から彼とこの手の会話を繰り返してきたから慣れたけど。

「本当は、久しぶりに幼馴染みに会いに来た」

綺麗な笑顔とその言葉に一瞬固まった。
いやいや、この男が無駄にこの手の――まるで気があるかのような表現をするのはいつものことだ。しかも自分の見目の良さをわかっていてやるのだから、質が悪い。それこそ今更だけど。

「…それはどうも。別に、悪巧みに来たと言ってもどうこう言う気はありませんよ」
「それはそれで寂しいものだな」
「冗談」

女が鼻で笑ったのに、むしろ嬉しそうに笑うこの男の神経は絶対おかしい。
一頻り笑った後急に目を細めた彼に、反射的に身構える。

「そうだな…言い方を変えよう。幼馴染みにじゃない。君に、会いに来た」
「もういいですから」
「本当だよ」
「…」

私は、彼の言葉は基本的に嘘だと考えて対応しているだけで、彼の嘘を見分けられるわけじゃない。だから、今だってどうせそれも嘘なんだと決めつけている。
なのに、いつもみたいに言い返せないのは――

「アモ、調子はどうだ?」
「…それは、卑怯です。ルシウス先輩」

何もかもお見通しのくせに、あえて聞くのは狡い。


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