早くに目覚めすぎた。

どうしようかと身体を伸ばしながら考える。ジェームズが昨日言っていたことも気になるけど、うーん…。
考えた末、とりあえずいつでも外を出歩ける格好になった後、散歩でもして朝食まで時間を潰すことにした。
よし!と部屋のドアを開けた瞬間、カン、と外から音がした。何かドアの前にでも置いてあったのかと下を見ても何もない。訳もわからず首を傾げた。

「…アモッ!」
「ひっ!は、はい!え、声シリウス…?やだ、何怖い」

どこからともなく名前を呼ばれ、幻聴か霊的な類いかの2択が頭の中に浮かんで身震いした。幽霊とかそういうの、苦手なんだよ。勘弁してよ。

「え?あ、悪い!外すの忘れてた」

突然虚空にシリウスの首から上だけが浮き上がり、思わず悲鳴を上げそうになった口を誰かの手に塞がれた。
やっぱり幽霊だった…っ!いやだぁ!怖いぃいい!

「透明マント!本物だから、あんま騒がないでくれよ!」

やっぱりシリウスの声がして、私は深呼吸をして自分を落ち着かせてから、今自分の口を塞いでいる手を優しく外した。簡単に離された手に、意を決して振り返る。

「…うん、…うん。シリウス…だね。…じゃあとりあえず、部屋上がる?」
「な…お前なぁ、男を簡単に部屋に上げんなよ!」
「…私に用があって来たんだと思ったんだけど、勘違いだった?」
「っそれ、は…」

未だに後を引いている無駄に煩い心臓に疲れ、投げやりになっている私は面倒臭い顔をしてシリウスを見た。
シリウスは狼狽えながらも私の正当な反論に言葉を詰まらせる。

「…お邪魔します」
「はい、どーぞ」

部屋に招き入れたまではいいが、そわそわしてはいるものの何か話すわけでもないシリウスに、私はさっきシリウスの姿を見てからずっと気になっていたことを聞くことにした。

「左のほっぺた赤くない?何かあった?」
「あー…これは完全に俺が悪いから仕方ない」

要領を得ない解答に、まぁ見るからに手形だもんなぁと神妙に頷く。苛立って告白してきた女の子を酷いフリ方でもしたのかもしれない。

「で、えっと…ああ、私が避けてるのが気になったから来たの?」
「いや…いや、そうかな」
「どっち?」
「…あのさ、俺がベルを好きだって言ったのに遠慮してんなら、そんなの要らねぇよ」

若干ずれた返答に、私は苦笑した。遠慮、ね。そうとも言えなくはないけど、ちょっと違うなぁ。

「んー…それもあるにはあるけど。じゃあこれからは朝の挨拶だけしに行くね」
「…いつもみたいに話したりはしないってことか?」
「……あのねシリウス、私のいつもの話すってつまり、きゃあ!シリウス今日も格好いい!愛してるっ!…ってことだよ?それは違うでしょ?」

シリウスとそれ以外のこと話したのなんて、数える程しかないし。
笑顔で首を傾げた私に、シリウスは顔をしかめた。

「…ジェームズは、」
「うん?」
「ジェームズとは、普通に話してたじゃねぇか」

ぽつりと呟かれたその内容に、私は数回瞬きした。
…つまり、ジェームズに負けたみたいで悔しいのね。なら仕方ないな、ちょっと普通に話してみるか。そしたらシリウスも納得するでしょ。

「じゃあ今から普通の会話してみる?」
「お、おう…」

何だ、この桃色の空気は。


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