私は性交の時、香水やらの匂いがするよりお互いの汗の臭いとその人独特の匂いを微かに感じる方が好きだ。香水をつけないジェームズに二度目か三度目の性交の時にそう言うと、ジェームズは笑いながら「やっぱりアモって僕に似てるよ」と言った。

「ん、んん…!っ」

秘部をジェームズに口づけられながら、もう随分昔になる会話を思い出し笑みが溢れた。

「何?どうしたの?」
「やぁ…っ!ちょっ、そこでは喋らな、でよ」

私の言葉にあっさりと口を離したジェームズに、自分から言ったくせに物足りなくなり、恨みがましくジェームズを見る。
ジェームズは笑って、口の代わりに指で愛撫し始めた。

「昔の会話、思い出したの。性交の時は汗と相手の匂いがす、ふっ…るのが一番、ってやつ」
「ああ、話したねぇ、そんなこと」
「でも考えたら精液の臭いもするよね」
「確かに」

恋人同士でもないのにこの手の会話をするのはもう、慣れっこだ。…ジェームズとこの関係になる前に寝た二人とは、こんな会話はしなかったな。名前も知らない初めての人とはお互い必要最低限しか話さなかったし、もう一人ともここまでぶっちゃけた会話はしていない。

「でも、関係て、っきにも匂い移らないから、いいよね」
「ああ、言われてみればそうだね。イきそう?挿れていい?」

指をナカから引き抜き、返事の前にズボンの前を開けて自身を取り出すジェームズに、私は股を開いた体勢のまま親指を立てた。

「どんと来い」
「アモ、色気出して。萎える」
「勃ってんじゃん」
「それは僕の想像力の賜物だよ」
「意味わかんない。後、想像じゃなく妄想でしょ?」

こんな会話をしながらも、ジェームズは私のナカに自身を挿れ、二人して腰を振る。
そういえば、下ネタ話はよくするけど、私とジェームズって色気のある会話したことあったっけ?…なさそう。
今度してみよっかなぁ。あー…でもジェームズに「何それ気持ち悪い」とか言われそう。リアルに想像できてムカつくな。

あ、もう駄目。イく。

「ジェームズ…っ?」
「ん、行くよ?」

早まった律動に二人同時に果ててから、そういえばジェームズとはよくあるけど二人同時に、なんて世間一般じゃそうあることじゃないよなとどうでもいいことを考えた。

「じゃあ愛囁きに行こっか」
「はいはい、アモも後片付け手伝ってね?」
「ほとんどジェームズの精液じゃん」
「ちゃんとアモの愛液もあるから」

今日も今日とて色気のない会話をしながら二人で性交の後始末をし、服装を整えて必要の部屋のドアを開ける。

「じゃあアモ、シリウスによろしく」
「言わないけどね。またね、ジェームズ」

お互い手を振って、自分の好きな人がいるだろう場所に向かう。
まだ夕方だから、この時間ならシリウスは…中庭が一番確率高いかな?

私が夕食やらによって入れ違いにならないよう急いで中庭に向かうと、予想通りシリウスがいた。

「シリウスー!流石色男、夕焼けも似合うね!今日も格好いいよー!」
「おう、アモ」

遠くから叫んで駆け寄れば、シリウスは珍しく本を読んでいたらしく、素早い動作でその本を自分の鞄の中に入れてしまった。

「え、何?何読んでたの?」
「何でもね、」
「隙ありっ!」
「っ!おい…!」

隙をついてシリウスの鞄から本を抜き取った私に、シリウスは大慌てでその本を取り返そうとしてきた。そんなことされたら余計気になっちゃうのが人の性ってもんですよ?
私は即座にシリウスから距離をとり、本の表紙に目をやった。

「『女心とは何か』…え?」
「あー!もう、返せ!」

引ったくるようにして取り返された本自体はもう気にならず、私はそのタイトルから推測される内容で頭がいっぱいだった。

「似合わな…」
「あ゛?」
「あ、は。ごめんごめん、嘘だって!(嘘じゃないけど)てか、シリウス好きな子できたの?!」
「…まぁな」
「そんなぁ。私というものがありながら…」

赤い顔で肯定したシリウスに、雰囲気こそ軽いもののちょっと本気で落ち込みながら言えば、急にシリウスは真剣な顔をした。心臓が跳ねる。

「それさ、いつも本気で言ってんのか?」
「え?うん、本気だよ?」
「…」

黙ったまま見極めるように私を見てくるシリウスに居心地悪くなり、もうそろそろご飯に行きたいなぁ、と空気を壊す発言をいつするかタイミングを伺う。

「…俺が好きな奴、お前の友達」
「へ…?」
「ティファニー・ベルだから」

私の横を通り過ぎていったシリウスに、さっきまで私も夕食をとりに行きたいと思っていたはずなのに足が動かなかった。


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