女主短編 | ナノ




むかしむかし、私がまだ今の半分ぐらいの身長の時、小指に繋がる赤い糸のお話をお祖母ちゃんから聞いた。
私はわくわくしながら、自分の小指の赤い糸は、どんな人と繋がっているんだろうと考えた。運命とやらに心を踊らせた。

むかしむかしのお話。



目を覚ますと、隣には誰もいなかった。
いつものことなのに今日もまたどうしようもなく寂しくなって、目頭が熱くなり目を閉じる。

自分が好きな人と当たり前に結ばれるわけではないと、もう私は十分に理解していた。彼の薬指にある指輪の意味も、別れる気なんてないのも、ちゃんと知っている。
停滞して堕ちるだけの関係を終わりにしたくて、できなくて、流されて、繰り返す。

「手紙、書こう」

本当は直接会ってる時に言いたかったんだけど、一生できそうにないから私は手紙を書くことにした。
手紙が濡れないように左手で涙を拭いながら書いたため、字は綺麗とは言えない。でも私は書けた。これで終わり。



「あ、ルシウスさん!これお手紙です!後で読んでください」
「今じゃ駄目なのか?」
「駄目なんです!」

笑顔で言えば、ルシウスさんは腑に落ちないような表情をしながらも手紙をローブのポケットに仕舞った。

そこからはいつもと変わらない。
シャワーを浴びて、ベッドに行って――やっぱり、最後の日にも奇跡なんて起きるはずもなく、終わった後私は眠った。
次に起きる時はもう二度と、ルシウスさんに会うことはないのだろうと哀しみながら。
私の赤い糸はきっと貴方とは繋がっていないから。私と赤い糸が繋がっている、未来の人と…幸せになります。



――息苦しさに、目を覚ました。
まずルシウスさんの顔が至近距離にあることに驚き、それから自分の首がルシウスさんの手によって絞め上げられているのに気づきもがく。

「っあ…ルシウ、さん…っ!」
「ああ、起きてしまったか」

私の首を解放したルシウスさんは、咳き込む私を見ながらひらひらと両手を振った。
私は生理的に涙目になりながら首を押さえ、困惑してルシウスさんを見る。

「何で…?」
「わからないか?」
「…わかりま、せんよ」

私が別れた後、誰かに話すと思ってるの?だから殺してしまおうって…?はは、最悪な終わり方。それでもこの人を嫌えない私が、一番最悪…。

「逃がさないよ」
「ぇ…?」
「ナルシッサとは家のこともあって別れられないが、私は我が侭なんだ。こんなことなら最初から閉じ込めておけばよかった」
「閉じ込め…?あの、よく意味が…」

何故か本能的に恐怖を感じて、形だけ笑みを作りながらベッドの上でルシウスさんから後退する。

「怖いか?」
「え、あ…」
「さっきは感情的になってしまった。悪かったよ。もう二度としない」

優しい笑顔で壊れものを扱うかのように、ルシウスさんに抱き締められた。
ああ、もう駄目だ。抵抗なんてできない。手紙まで書いたのに、今日も私は流された。

「少し眠れ、ステューピファイ」
「っ…!ルシ、」

予想だにしなかった失神呪文に意識を無くす中、ルシウスさんの笑顔だけが強く頭に残った。





目覚めると同時に、黒い天井とひんやりとした空気に身震いした。
慌てて跳ね起き辺りを見回すと、まず最初に目に入ったのは鉄格子。何此処、牢獄…?
正規の牢獄と言うには、私が今まで寝ていたベッドといい、ソファーといい、家具が充実していてかつ高そうだ。豪華すぎる。

「此処は…?」
「おはよう、なまえ」

優しい笑顔が鉄格子越しに見えて、私は安心した。
きっと私はとっくに、ルシウスさんに飼い慣らされていたんだろう。濁った目には未来なんて映らず、ルシウスさんの糸が私の小指を拘束するのにも気づかなかった。

でもこの時、まだ私は一生をこの牢獄で暮らすなんて思ってもみなかった。


雁字搦めのい糸

糸の先はもう、見失った。


企画:水様液様提出


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -