毎日毎日、一人彼の帰りを待っている。小さな四畳半の部屋で、ただ貴方の愛だけを待ち続ける。
そこまで貴方を愛し続けるお人形は、人間になれず貴方への愛しか持ってないお人形は、滑稽でしょうか?
笑われてもいいわ。嘲られてもいいわ。貴方がいてくれれば、それでいいから――
「…お姉さん、大丈夫?」
「……」
あら、何でこの部屋に子どもがいるの?
子どもに合わせて作られたのではないだろう、大きな黒渕眼鏡の少年。青い子ども用の正装のような上着に、下は短パン。真っ赤な蝶ネクタイ。
「あの、僕迷子みたいなんですけど、此処が何処だかわかりますか…?」
「……そう、大層な迷子ね」
私がかつて被験番号0135とさえ呼ばれていなければ、この小さな子に騙されたのだろうか。
いや、そもそもその過去が無ければ、私は今此処にこうしていないけれど。
「工藤君、」
「な、何言ってるの?お姉さん」
「別に、私はアナタの味方では無いけれど、この部屋汚されたくないのよね。…もうすぐ、ジンが戻るよ」
「ッな…!」
急に大人の顔になった工藤君、工藤新一というらしい少年に、窓を開ける。
「玄関じゃすれ違うだろうから…二階だけど、大丈夫?」
「ああ…でも、アンタは黒の組織の、ジンの何なんだ?」
「私はね、ジンだけのお人形。ふふ、世界一幸せな、人形よ?」
何とも言えない、同情するような怒ったような表情をした工藤君は、それでも廊下から足音がするのに気づいたのか、窓から飛び降りた。
ああ、狡いなぁ工藤君。ジンのベンツに乗ったんだ。いいないいな。私もまだ乗りたかったなぁ。ウォッカとも会ったんだ。ジン話してもくれないし。あの子元気なんだ、よかったぁ。
「名前」
「ジン、お帰りなさい」
「ああ。外でも恋しいのか?」
工藤君が去っていった窓をぼーっと見ていたら、ジンの咎めるような視線を感じた。
私は思わずふふ、と笑ってジンを振り返る。
「いいえ、風が気持ちいいの。ジンの髪が揺れて、綺麗ね」
「お前、相変わらず変な奴だな」
「ふふ、そう?」
いいじゃない。幸せなんだから。今日も私、ジンに愛されてるって目から耳から肌から脳から感じるの。ああしあわせ。
「此処は狭くねぇか?」
「引っ越しはいや。ジンが近くに感じるから、私この部屋好きよ」
「…そうか」
引っ越しの間は苦しいしつまらないし息が詰まるし寝ているのも限界だから、嫌いなの。ジンと一緒に過ごしてきた、この狭い四畳半が好きよ。
「ジン、貴方が大好きよ」
「…ああ、俺も名前が好きだ」
幸せ。
外に出るより、自由をもらえるより、ジンを愛し愛されている今が最高に幸せ。
ああもう、なんて綺麗な純愛のお話なのでしょう。
お題:
√A様より