女主短編 | ナノ




私とその一見暴力団とかもしくはヤクザとか不良とかそんな感じの見た目な彼との出会いは、遡れば五年前。
人気雑誌の紙面を見て、私は「単純思考弄られキャラ!センス、服のセンスどうしたの?!ジャージ以外の服はいっそ選ばせたら駄目な人なのかな?!ユニ○ロから始めたらいいと思うよ!」と友人相手に爆笑しながら歪んだ愛を語っていた。
しかしそれはあくまで本人が目の前に居なかったから言えた話であって。私、A級賞金首なぱこぱこ人を殺しちゃうような人相手に軽口叩ける程ノーテンキさんでは無いわけで。

だからトリップして一年。キャラと一ミリもかする事なく慎ましく生きてきた私のバイト先の個人経営(じゃないと身分証も戸籍も無いから働けなかった)の小さい雑貨屋さんにかのフィンクスさんが来たからといって私は、雑貨屋?!フィンクス先輩、この雑貨屋さんにはコブラでエジピティな被り物は売ってませんよ?!と口に出す事なくぽかんと口を開けてしまったものの、引きつった営業スマイルを浮かべる以外の選択肢は持たなかったのであります。

「いらっしゃいませー」

決まり文句と共にただのチンピラである事を祈り、一度視線を外してから再度お客様を見る。
…この眉無しに厳ついお顔、金髪に限りなく近い茶髪、ジャージ……ダメだ、フィンクスだ。私の初遭遇キャラはもうフィンクスなんだ。雑貨屋に何の用だ。何故無駄な旅団スキルを駆使して欲しいものだけ華麗に持ち去ってくれなかったのか…この一年お世話になったお店は大事だけど私は命と身の安全を優先したいんです。ごめんなさい店長。既に叶わなかった話なのでお許しください。
私は己の精神衛生上なるべくフィンクスを視界に映さないようにして、別に今の時間する必要もない在庫チェックに精を出す事にした。

「しけた店ね。ちちゃいゴミしか置いてないよ。これなら流星街の方がいいものあるよ」

…ん?!
私は聞こえて来た明らかにフィンクスのものではないというか、主に紙面で見た覚えのある話し方に、紙とボールペンを置いてロボットのようにギギギとぎこちなくフィンクスの方、の、下を見た。

…フェイタン……様。


……。

す、すすすすみませんフェイタン様違うんです私別に見えなかったのはフィンクスの登場に驚きのあまり他まで目につかなかったといいますか!フェイタン様のステルス能力が優れ過ぎていて一般人代表的弱者な私めには捉えられなかったといいますか!そう、決して身長的問題で目に入らなかったとか、そういうハイパー拷問コースな理由ではナインデスヨ!!

「勝手に付いて来といて文句言ってんじゃねぇよ」
「店はつまらないけどこんな面白そうな事見逃すワタシじゃないよ」

あっ、私に興味無いっぽい。良かった、マチだったら勘で気づかれて睨まれるところだった。いや、私マチちゃんは一般人に優しい子だって信じてる。店内の二人は論外。

「おい」

てか旅団女性陣は三人共美人さんで性格もさっぱりさんで、仕事が人殺しを前提においた盗賊でなければ是非ともお近づきになって崇めたかったよね。変な意味じゃなく可愛い子大好き。目の保養って素敵!

「おいッ!!」
「ひっ…?!……は、はは、は、い。しつれ、致ひまひた。何のご要けっ?」

フィンクスに話し掛けられた。てか怒鳴られた。私の言語能力は死んだ。
一応トリップした最初の頃は、もしかして瞑想してたら念出来てんじゃない?そういう世界でしょ?!となけなしの世界を楽しもうとする心で毎日瞑想しようともしてみたけど、初日から挫折した。心をからっぽってどうするのムリダヨー、な要するに上から下まで弱者百パーセントな私は、フィンクスにかかればミジンコ。勝手に身体からは冷や汗だし震えるし涙目。怖過ぎてフィンクスの顔見られない。

「厳つい眉無しに睨まれて店員怖がてるね」

視界の隅に捉えたフェイタン様の顔はしかし愉しそうだ。愉悦の方の愉しそう。さすが人の不幸は蜜の味何様処刑人様フェイタン様。
やばい、手助け期待出来ないにも程がある。

私は一先ず、私というか恐らく店員に何か用があって怒鳴ったろうにそれから一切のリアクションを取らないフィンクスに、5秒ぐらい掛けて恐る恐ーる顔と視線を上げてみた。

…ひっ!!顔真っ赤!眉間に皺!眉毛…は元から無い!
やばいよ怒ってるよ私の態度ってかむしろ存在に?かつて紙の上のアナタをギャグキャラとして笑ったから?

「……あの、よ、」

ん?
視線を逸らし、妙に言いにくそうに弱々しい声を出すフィンクスに物凄い違和感を感じて少しだけ冷静になった。フェイタンは口元見えないけど目が明らかににやにやしている。
……あれ、これもしかしてフィンクス怒ってない?

ちょ、ちょっと冷静に考えてみよう。
フィンクスは非常に不似合いな事に雑貨屋に何か用があって来た。フェイタンはその付き添い。フィンクスは私に何か非常に言い難い事を言おうとしている。フェイタンはそれをにやにや見てる。
…あ、これ私知ってるわ。下手に賞金首とか犯罪者とか考えなかったらわかるわ。

これ、罰ゲームじゃん?


…って、マジかよ!!!雑貨屋の店員に何言わされるのか知らないけど、フェイタンも来たって事はプライベートでも仲良し子良しなんですね!!いやダウトとか腕相撲の下りで何だよお前等大の大人がくっそ仲良しだな萌えるとは思ってたけど!!でもこういうすっげどうでもいいお茶目なサイドストーリー的なのがお姉さん達のハートに発火しちゃうんだよ!!これまさにその、全世界の乙女の夢がなんと現実でした展開じゃねぇですかよ!!

「あ゛ー…ッ!」

真っ赤な顔で頭を掻き毟るフィンクス。
気づいてみると面白いし可愛いではないか。なんだい?君はこの小さな雑貨屋店員さんにどんな事を言って来るよう命令されたんだい?八つ当たりに殺されるのだけが怖いけど、君は好きキャラだし大抵の願いは叶えてあげるよ?…あ、でもあんまりスムーズ過ぎると今度は面白いものを見たいフェイタン様の機嫌を損ねる?え、さじ加減むずっ。私の苦難全然終わってない。

「…なまえ、さん」
「っ?!」

フィ、フィンクスさん、何故貴様、一店員であるこの私の名前を知っている。罰ゲームするにあたって手頃そうなの調べ上げたの?シャルナークの情報網?暇なの?
いやそれより特筆すべきはどう考えてもその呼び方。さんって、何。似合わないよ。なんか気持ち悪いし怖いよ。呼び方指定なの?
後、フェイタン様の笑い声なんて超希少価値なんだろうけど、それフィンクス苛立たせて私に死亡フラグ立つからやめて!

「あ、俺フィンクス…です」
「は、はいご丁寧にどうも…」

誰か助けろ。これは誰ですか敬語使えるフィンクスなんてフィンクスじゃないよ、ふぇえ。…混乱してテンション迷子になってる。気をしっかり持とう。

ふと、フィンクスが覚悟を決めたような顔をした。私は気を張り詰める。なんてパンドラボックスだ。しかも私開けたくなかったのに自分から開いて突撃して来たぞ。厄災は溢れ出さないでくださいお願いします。
そんな私の懇願なんていざ知らず、フィンクスはなんと頭を下げ、そして、言った。


「好きです!俺と付き合ってください!!」

死んだ。

フェイタン様が遂に床に崩れ落ちて笑い転げてる激レア映像だけど、そんなものは遠い目だ。

物理的に死んだ。

これ、罰ゲーム告白じゃん?つまり、断るイコールお前ごときが断るなんてざけてんのか死ね。承諾イコールんな面倒臭ぇ付き合い出来るか死ね。どう転んでも私が死ぬ。世知辛い世の中だ。

「…少シ考エサセテクダサイ」

とりあえず延命処置を図った。今の怒りでいっぱいだろうフィンクスにはどうせ何言っても殺されそうだし。
嬉しい事に私の命乞いは受け入れられ、一週間後また来ると言って、普段使わない箇所の腹筋を酷使してお腹を押さえているかつ軽く呼吸困難にもなっているフェイタン様を引きずり、まだ怒りでか羞恥でか顔がほんのり赤いフィンクスがお店から去ってから、私は遂にその場に崩れ落ちた。

「っ完全に、私の罰ゲームじゃないかこれ…!」

私は泣きながら考えた。永劫来て欲しくない一週間後までに上手くフィンクスに殺されず済む最善解答を用意しなくては死。
それにしてもフィンクスや、いくら嘘とはいえ告白しに来てジャージはねぇと思いますよ、ジャージは。


ーーー
雑貨屋に来るまでの旅団内会話

「あのよ、シャルナーク」
「ん?どうしたのフィンクス真面目な顔して」
「お前、落としたい女と会う時どんな服装で行く…?」
「「「ぶっ…!!」」」

>その時、拠点地に居た蜘蛛全員が噴き出した<
>そして何故その議題でシャルに聞いた<

(中略)

「だからジャージでいいよジャージで!その方がおもし…あーあ、俺もこれから仕事無きゃ付いて行ったのになぁ」
「残念だたね。ワタシがシャルの分まで愉しむよ」
「お前も来んな!!」


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