今日はクリスマスだ。外は雪が降りしきり、幸せな家族やカップル達がホワイトクリスマスだ、なんて浮かれている。
私はロマンチックの欠片もない一人きりの部屋で、空いたビールの缶をゴミ箱に投げ、煙草に火を点けた。缶は綺麗に弧を描いてゴミ箱には入ったものの、缶に僅かに残っていたビールの液が床に飛び散った。
「…」
やりきれない想いに、まだ吸い始めたばかりの煙草を灰皿に押し付け、また新しいビールの缶を開けた。
ああもう、雪は菌の塊だし、サンタクロースはただの不審者だし、イルミネーションはただの電灯だし、全然綺麗じゃない。私も。
クリスマスなんてものは、意味はどうあれ好きな人と過ごすことに意義がある。
イギリスのクリスマスなんて、大多数が家族と過ごすものだ。私に親はいない。
彼と家族にも、なれない。
「なまえ」
「…?」
あら?何でルシウスが此処に…?貴方、妻と子どもといるはずでしょう?
あ、酔いすぎたのか。
「ちょっと野暮用でな」
「へー」
幻の言うことなんて、聞くだけ無駄だけど。だいたいルシウスが家族より私を優先してくれたことなんて、一度だってないんだから。
私とルシウスは、ホグワーツで出会った。当時三年生だった私は新入生としてスリザリンにやって来たルシウスに一目惚れして、婚約者がいるのも構わず猛アタックした結果が…この様だ。
「何しに来たの?」
「…プレゼントだ」
「え」
ぽん、と手に乗せられた丁寧にラッピングされている高そうな箱を前に、私は固まった。
さ、さすが幻。ありえないことしてくれる。ルシウスは残るものなんて、絶対くれないんだから。
「開けないのか?」
「ぁ、開け、る」
…私が望んだ幻覚のはずなのに、中のものがまるで見当がつかない。えっと…とりあえず残るものでは、ないはず。
箱を開けると、中には中央にルビーのついた、いかにも高そうで凄く綺麗なネックレスが入っていた。
私はそれを手に取り、数秒固まった後瞬きを繰り返す。
「何これ、…首輪?」
「お前らしいな」
「…どういう意味よ」
「素直じゃない」
図星をつかれて、たじろいだ。
しょうがないじゃない、幻相手なのに、こんな些細なことでもっと貴方を好きになっちゃったんだから。強がるのは…しょうがないじゃない。
「これ、渡すために来たの?」
「…」
「…そんなわけないかー」
もしも、この目の前のルシウスが本物だとしたら、その目的はきっと――
「いいよ、殺せば?」
「…抵抗しないのか?」
「帝王様の命令なんでしょ?なら今奇跡的に逃げ切れても、無駄だし」
貴方に二度と会えないなら、そんな命要らないし。
笑った私と対照的に、ルシウスは顔をしかめた。その手には杖。今から私の命を奪う、凶器。
私は素早く、ルシウスから貰ったネックレスをつけた。
「いいんだ、最後にちょっとだけ愛を感じたから」
結局、ルシウスが家族より優先させたのは私じゃなく闇の帝王。
でも何だか窓から見える景色が綺麗だから、許す。
緑色の光が、イルミネーションみたいだなって思った。