「レギュラス君は、優しいよねー」
「…」
「私がレギュラス君を優しいって感じてるから、私にとってのレギュラス君は優しいんですよー」
私は私の部屋にて、ブラック家の嫡子であるレギュラス・ブラック君との会話を楽しんでいた。
え、会話成立してない?今更ですよ。
「アンタは、」
なんと、レギュラス君が口を開きました。これは第九十二回目の会合以来です。あ、ちなみに今は第百一回目の会合中であります。
「これでいいんですか」
「…なにが?」
質問が抽象的過ぎてわからないです。
レギュラス君が頭がいいのか、私が馬鹿なのか、こんな感じにたまにレギュラス君が口を開いても会話が成立しないことが多々あります。ちなみに私が馬鹿なのは学校行ってないので仕方ないかと。誰も勉強教えてくれなかったし。
「鳥籠の中で、幸せか?」
「…ええと、レギュラス君は私を馬鹿にしてるの、かな?」
「断罪しますか?」
なんだ、こいつ。本当に私を馬鹿にしていやがる。
「じゃあさー、」
私は自分のベッドにごろりと横になって、見下すように、または嘲笑うようにレギュラス君を見た。
「今から私を襲いなさい、とか命令したら、君はそれに従うのかな?」
「僕に死ねということですか?」
「あはは、洩れないようにはしてあげるよ。ただし、断った場合は何も保証しない」
「なら…アンタがそう命令したら、従うでしょうね」
「嫌な奴」
偽善とか、そういうの取っ払った人間臭い答えだ。嫌になる。レギュラス君が優しいから、私はたまにどうしようもなく、苦しくて泣きたくなるんだよ。
私は、人形のままでありたかったのに。
「鳥籠の中で生まれたから、外がどんなに素晴らしいかも知らない。だから、幸せが何かわからない。今が幸せか、昔が幸せか、籠を出たら幸せかなんて」
「アンタとは、別の所で出会いたかった」
「あはは、ありがとう」
嘘は要らない。だけど真実も要らない。だから、レギュラス君のくれる言葉だけが、私を喜ばせる。そして絶望させる。
私は自分の視界を両手で覆い、口許だけに笑みを浮かべた。目まではきっと、笑えないだろうから。
「行きなよ」
「…いいんですか」
「敬語はやめてよ、最後ぐらい」
私はね、レギュラス君、君とは何もかも違ったけれど、変なところわかりあった不思議な関係だったと思うよ。
だから君が今から死にに行くことぐらい、知っているよ。でも止めないよ。だって、君と私の関係の名を、私は無くしてしまいたかったから。
「なまえ」
「…」
「泣くなよ」
うるさい。本当に言いたいこと堪えるの、私今すっごく我慢してるの。私が我慢するの、レギュラス君に関することだけなんだよ。そのレギュラス君は今から自分の意志で死にに行っちゃうんだよ。もう会えないんだよ。かなしいよくるしいよいやだよ。
「死ぬなら、私のために死んでって言ったら、どうする?」
「……できません」
うん、知ってる。
じゃあって、これを言っても貴方は断るのでしょう?知ってるよ。だから言わない。
私は両手を顔から離した。視界は涙で歪んでいたけれど、それでも真っ直ぐにレギュラス、を見る。
「ねぇ、レギュラス」
「何?」
「私達、友達だった?」
我ながら下手くそでぐちゃぐちゃな笑顔を浮かべると、レギュラス君は少し驚いた顔をしてから、笑った。
「恋人だったよ」
「っ…そっか」
そうして恋人は、ドアから出ていった。もう二度と此処には戻らないんだろう。
死んでください私のために?そんなの嘘だよ。本当は、
死んでください私のために嘘です生きてください、どうか、私のためじゃなくたっていいから。何でもいいから、貴方に生きていて欲しかったのに。
お題:
花洩様より
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夢主は闇の帝王に軟禁されている籠の鳥。
レギュラス君は一応その世話係。