無題 ーゆうかんー
雑貨品。
▼朝焼けの空。閉じた踏切と、鎖の絡んだ猫。
▽名を持つ少女の、勇敢の画。
あ。
下りた遮断器を飛び越え、迫りくる鉄の塊にすり潰されそうだった
子猫をすくい上げた。
そのまま抱え込みながら地を蹴り、体を丸めた状態で転がる。
通り過ぎる電車の音にも掻き消されない、ギャッという醜い声がして、
はっとして体を起こせば、大勢の大人達に囲まれていた。
すごいね。大丈夫?猫は無事かな。君のおかげで助かったよ。
危ないだろ。かっこいいとか思ってんのか。怪我はない?
「勇敢なんだね」
……何が勇敢だ。何も知らないくせに。
こんなものを、こんなことを勇敢と呼んでくれるなよ。
「”体が勝手に動いたんですよ”」
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/このアイテムの効果は「記憶スキル」として使用出来る。
/アイテム所持枠を、必ず1つ消費すること。
セッション中、一度だけ自動発動。
味方が危険に陥った時、スキルの有無、感情の良し悪しに関係無く、
自分の身を危険に寄せても、対象一名を庇ってしまう。助けてしまう(要GM判断)
その際貴方の、庇おう、助けようなんて気持ちはどこにもない。
故に、誰よりも、何よりも早く行動が出来る。
目の前で傷ついてしまうものがいたら、目の前で摘まれる命があったら、
何かに突き飛ばされるように体が勝手に動いてしまう。
だからこれは、勇敢な物語なんかじゃない。
何かを助けた代わりに何かを助けないことを余儀なくされる、呪いの物語だ。
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厚みのある装丁の本を模した、硝子のロケットキーホルダー。
何故か中身が透けない表紙を開けば、中には一枚のステンドグラスがはめ込まれており、
組み合わさった個々がきらりと輝くだろう。
そして、貴方のものではない筈の物語が流れ込む。
これは一体、誰の、何の物語なのだろう。
誰にも語られることはなかった。誰かが諦めてしまった。
少しだけでも、何かを残したかった柔らかい爪のひと掻き。
…そんな、誰の傷にもなれなかった話。