◎柚香ちゃんとナルちゃんと私




「えっ、先輩って頭良いの!?」

うーんうーんと唸っていた柚香先輩が顔を上げて俺を見てきたので、優しく訂正をする。

「あ、勿論柚香先輩の事じゃないよ。」
「う、うるさいなナル!!」
「いや、流石に中学生の問題は解けるよー。ほら柚香ちゃんは手ェ止めないの。」
「うぅ〜…!」

苦い顔をして顔を伏せて問題を解き始める柚香先輩を眺めつつ、近くの椅子に腰掛けて背もたれに肘をつく。
解き始めたはいいものの、一向にペンが進まないんだけど。そんな柚香先輩に呆れもせずに(もうし尽くしたのかもしれないけど)横から口と手を出す先輩。

「そうそう。で、最後に括弧で纏めて…」
「…こう?で、出来たーーー!!」

「先輩って教えるの上手いんだね。俺ならとっくに匙投げてそうだよ。」
「私が?はは、私は駄目だよー。」
「?なんで?」
「そうですよ!先輩凄い教え方上手ですし、先生でも半分投げ出してるのに根気強く教えてくれますし!」

柚香先輩…

「私の場合過去の産物っていうか…ぶっちゃけ丸暗記な部分が多いからさー。」
「丸暗記?」
「んー。だから理解してるっていうよりは、そういうものって暗記してる部分が大きいんだよねー。」

数学とかは一々解くけど、と軽く口にする先輩。丸暗記って…

「なにその天才発言。」
「暗記なんて私無理ですよぉ…。」
「そりゃ得意だったらそんな風に困って無いだろうね。」
「もー、さっきからナルうるさい!」
「はははは。」
「先輩までっ!」

ヒドイッと頬を膨らませてそっぽを向く柚香先輩。どこの子供だよと呆れた目で見ていると、先輩が笑うのをやめて頬杖をつき俺を優しい瞳で見てくるのに気がついた。

「でも…私はナルちゃんって結構向いてると思うけどなぁ。」
「は?」
「ナルが…先生?」

俺が教師?そんな事考えたことなかったし、多分先輩に言われなかったら考える事なんて無いと思う。だけど、先輩の瞳が余りに優しげだから。なんとなく気恥ずかしいけどなれるような気がしてきて。

「そう…かな…?」
「うん。」

へらっとした笑いではなく優しく微笑む先輩に視線を泳がすと、柚香先輩が羨ましくなったのか声をあげた。

「えー!なら先輩っ私は!?私は何に向いてると思います!?」
「え、えー柚香ちゃん?」
「はいっ!」

先程の空気は一掃され、先輩は腕を組んで首を傾げた。

「理数系は駄目だよねぇ…。保育士…はピアノがいるって聞いたことあるし、OL…とかもパソコン弱そうだしな…うーんうーん。」
「………柚香先輩、先輩を困らせないであげてよ。」
「そんなに悩まなくてもいいじゃないですか…。」

数年後、先輩に再び出会う為に学園に残る事を考えた結果、この一つの選択肢を選ぶ訳だけど。この時の自分はまだ知らない事だ。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -