るーみく | ナノ



「桜ちゃん」

思えば初めて名前を呼ばれた。通学路にいつもいる霊。私は何故かその霊が気になって、気づけば話しかけていた。

「どうしたの?」
「……別に、大丈夫」

その霊はいつも大丈夫、と言っていた。人と距離をとって、怖くて近づけなくて、でも本当は近づきたいのだと感じた。
こんなことがあった時、いつもなら六道くんに相談をする。でも何故か今回は相談しなかった。私は六道くんに憧れていたのかもしれない。霊を救い導ける彼に。私は霊が見えるだけで何もできていないから。
通学路で見かけるたびに声をかけた。私は何故かあの霊に惹かれ、力になりたいと思うようになった。「今日の気分はどう?」「いい天気だね」
色々と話しかけた。返ってくるのはいつも「別に」や「そうだね」で、会話が弾むことはなかった。少し気まずそうな気さえした。
そんな日常のある日、霊は私に「ありがとう」と言って手を握った。2人の間には穏やかな風が吹いていた。霊はひっそりと消えていった。まるで最初からそこにいなかったかのように何も残していなかった。きっと成仏したのだろう。なぜ成仏したのかわからないが、私には霊の手の感覚だけが残っていた。夢ではなかった。

「真宮 桜」

後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。派手な羽織を羽織った赤毛の彼は私をまっすぐ見ながら立っていた。

「六道くん」
「……あの霊は成仏したんだな。やっぱり真宮 桜は死神の素質があるかもしれん」
「……そんなことないよ」

私は何故だかぽっかりと心に穴が空いたような気分だった。

「真宮 桜。……出会いと別れを繰り返して、人は成長していくのではないかとおれは思う。出会った霊とは必ず別れることになる、しかしその別れから得られるものがあるのではないかとおれは思う」

六道くんはそう言って私に近づいてきた。

「出会いからも別れからも、きっと何かが得られる」
「じゃあ、六道くんが私と出会って、私が六道くんと出会ったことで、きっと何かが得られたんだね」
「ああ。……おれは少なくとも真宮 桜から大切なものをもらった」
「ふふ。私もだよ、六道くん」



130112



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