「寒いな」
りんねはぽつりと呟いた。
「寒いね」
桜が両手を擦り合わせながらりんねの呟きに答えた。
「真宮 桜」
「どうかした?六道くん」
高校に入学するまでりんねはひとりだった。だから今「寒いな」と呟いたのもあくまで独り言の域を脱していなかった。そんなりんねの独り言に桜は返事をくれた。それがりんねにはとても嬉しかったのだ。
「……いや」
「そう?それにしても本当寒いよね。息が白いよ」
言いながら桜は息を吐き出す。桜の口から出された空気は白く風景に溶けた。
「あ、私コンビニで肉まんでも買ってくるよ」
そう言うと桜はコンビニまで走って行ってしまった。りんねは特に何をするでなく立っている。
「寒いな」
ふと呟いてみる。今度は返事は返って来ず、りんねの呟きは風景に溶け、さっきとは違い余計に寒さが身に染みた。
隣に当たり前のように居てくれる存在はとても良いものだと、りんねはしみじみと感じた。
「六道くーん」
はい、と言いながらコンビニから戻って来た桜が渡すのは半分に割られた肉まんとあんまん。
「なんか急にあんまんも食べたくなっちゃって。半分こしたら両方食べられると思って」
右手に肉まん、左手にあんまん、左隣には桜の笑顔。寒い冬だけれど、りんねはほのかに暖かい気持ちになった。
121202