触れるようで触れない2人の薬指を見ていると、なんだか心がモヤモヤする。六道くんは意外と誰とでも手を握るから、六道くんのことを信じたい気持ちはあるけれど、疑ってしまう気持ちもある。そんな自分が嫌だった。ポツリと私の手に雨粒が当たった。
「六道くん、雨降ってきたよ。傘出すから入りなよ」
「……いつもすまん」
六道くんは申し訳なさそうに私の傘に入る。自然と距離が縮まって、心臓が高鳴った。
「こんなに雨が降ってしまうと、桜が散ってしまう」
「そうだね。でももう桜の時には遅いんじゃないかな?」
「……そうか」
六道くんは少し寂しそうに俯いた。こんなに距離は近いのに、何故か六道くんが遠く感じた。
「春が来るとこの川辺は、桜がいっぱい咲くから、それを見るのが好きなんだ」
私はうん、と頷いた。六道くんは花の桜を見るのが好きだと言っているのに、自分のことを言われているようで少しドキドキした。私は自意識過剰だ。
「真宮桜、前」
「え?」
六道くんに言われて前を見てみると綺麗な虹が空にかかっていて、それを見ていると自分のどこか憂鬱な気持ちも雨に洗い流されたようだった。
「……綺麗だね」
今度は六道くんがコクリと頷いた。2人でこんな時間を過ごせるのなら雨が降るのも悪くないと桜は思った。
「通り雨だったね」
傘を閉じながら呟く。また六道くんとは少しの距離ができて、距離と比例して少し寂しくなった。今日は久しぶりに六道くんと出かけて、ちょっとでも可愛く見えるようにリップなんかも塗ってみたりして、なのに、空気は少し重い。自分がかわいくない顔をしているのがわかるだけに、余計に寂しさを感じた。六道くんが好きな気持ちを伝えたいけど、どう伝えたらいいのかわからないことも、歯がゆくて、伝わらないことが虚しくて、苦しかった。
手持ち無沙汰な右手をフラフラ振りながら歩いていたら、六道くんがそっとその右手を取った。その手はとても優しくて、六道くんを見上げると真っ直ぐ前を向いていたけれど、その顔はほんのりと赤くて。六道くんと私の気持ちが同じだと信じてもいいのかと、信じたいと思った。そっと六道くんの左手を握り返す。この手は私の心も鷲掴んでいて、全く離してくれないなと思った。
「ねえ、六道くん」
キス、したいな。と六道くんの耳元まで背伸びして囁く。六道くんはほのかに赤い顔をさらに赤くして、でも優しく唇を落としてくれた。嬉しくて、六道くんにむかって微笑む。きっと私の顔も赤い。それが漠然と幸せだと思った。
「真宮桜、また来年も桜を見よう」
「……うん」
桜の咲いている期間は短いけれど、六道くんとは長く付き合っていきたいと思う。たとえ桜の花が枯れてしまっても。死神みたいな六道くんとは違って私の時は有限だ。でも、めぐりめぐる時の中で、いつも2人で微笑みあって、桜を見れますようにと、桜はこぼれ落ちそうな桜に祈った。
150419