るーみく | ナノ



「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
おれたちはクラブ棟にあるコタツで年を越した。いくらコタツの中とはいえ、隙間風だらけのクラブ棟は寒い。しかし心まで寒くはなかった。目の前に真宮桜がいるからだ。
「ねえ、六道くん。よかったら今から初詣にでも行かないかな?」
「……真宮桜がいいのなら」

二人で冬空の下を歩く。冷たい空気が頬をかすめる。首元は暖かかった。彼女につくってもらったマフラーがあったから。しかしおれと真宮桜の間の距離はつかず離れずといったところだ。手と手の間の中途半端な拳1個分の距離がそれを示していた。時々思う。真宮桜はなぜおれと一緒にいてくれるのかと。おれは彼女にしてもらえる分だけの恩を返せているわけではないし、いつも迷惑をかけているばかりである。おれの手に下げられた肉まんとココアの入ったレジ袋も彼女からの差し入れだ。正直、彼女がいなければおれはとっくに餓死していてもおかしくないと思う。それくらい自分が甲斐性無しだという自覚もしている。だからこそなぜ真宮桜はこんな自分と一緒にいてくれるのかという疑問はある。それと同時にわずかばかりの期待もあった。真宮桜はもしかしたらおれのことを特別な存在として認識してくれているのではないかと……。
「真宮桜、おまえはどうして……」
「え?」
「いや、なんでも、なんでもないんだ」
「おれなんかと」、そんなひがんだような台詞は外に出ることはなく、真宮桜の真っ白な吐息と共に空に溶けた。ぽつりぽつりと無言で歩く道のりにレジ袋のガサガサという鳴る音だけが響いた。薄暗い街並みの中で、真宮桜の頬がほんのり赤く染まっている。寒いのだろうか、そんな彼女の頬に触れたいと思った。
「ねえ」
「……なんだ」
「もしかして、おれなんかって思ってる?」
ドキリとした。気づかれていないと思っていた。自分の心の中に潜むこの劣等感に。自分が付きまとうのは本当は迷惑なのではないだろうか。今まで気づかないふりをしていた。気づいて、答えを出されてしまえばもう一緒に居られないかもしれないから。怖くて決して本人には聞けなかった。
「どうしてお前はおれみたいなのに付き合ってくれているんだ?」
そんなことを。
「ねえ、六道くん。月がきれいだね」
空を見上げたが、今日はくもり空で、月の影すら見えなかった。ふと彼女を見ると、彼女らしくなく耳は真っ赤に燃え上がっていた。
もし。もし彼女が自分と同じ気持ちからその言葉を言ってくれたのなら。自分にとってこれほどまでに嬉しいことはないと思った。
「真宮桜、おれはもう死んでもいい」
「……六道君、顔真っ赤だよ」
「お互い様だ、真宮桜」
「……きっと寒いからだね」
「……そうだな」



140101
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -