るーみく | ナノ



「六道くんって、食べてないだけあってやっぱり細いよね」
桜はりんねを見ると溜息をつきながらそう言った。りんねはなんとなく自分の腹を見てみる。ジャージの上からだからはっきりと断言できるわけではないが確かに見下ろした自分の腹はそんなに太い訳ではないと思う。しかし別に筋肉がこれといってついている自覚もなかった。少し前まではあばら骨も見えていた気がする。
「まあ、別に太くはないな」
「そんなにひもじい?今度はもっと肉のつきそうなの持ってくるね」
桜はりんねの目の前にもやしとニラの炒め物を差し出しながらそんなことを言う。確かに自分も年頃の男子学生なのだから欲を言えば肉を食べたいが、桜から食料をもらえるだけで満足していた。禁欲には慣れている。なによりそんな我儘を言っては罰が当たる気がする。ただでさえ桜には毎日大変なくらい世話をかけているのだ。淡い恋心を抱いている身にとってはいつ愛想をつかされてもおかしくないこの状況は心臓に悪い。
「いや、いつも真宮桜には感謝している。感謝してもしきれないくらいだ」
深々と頭を下げて心の限り礼を言う。せめてこの気持ちが伝わればいいと願いながら。
「そんな……いいよ、別に。そんなことよりあったかいうちに食べなよ」
「いつもすまん、真宮桜」
箸をとり、もやしを齧る。シャキシャキとして美味しい。口をしっかりと動かしながらりんねは桜をぼんやりと眺めた。自分のことを細いというが桜の方が細いと思うのだ。最近になってさらに痩せた気もする。いつか倒れるのではないかとりんねは心配でもあった。そんなりんねの左手首を桜はがしりと掴んだ。
「……真宮桜?」
「ほら、やっぱり六道くんは細いよ」
手首、私より細いかも。なんて心持頬を膨らませて言う真宮桜は贔屓目に見た結果とてもかわいい。りんねはとても動揺した。桜からりんねに触れてくることなど滅多にないからだ。
「……真宮桜の方が細いだろう」
「そんなことないよー。私、最近太ったし」
太った!?その体型で!?りんねは自分の耳を疑った。どう見てもそんなことはなかった。百歩譲って痩せていたとしても、桜はもう少し太るべきだと思った。
「いや……お前はもうちょっと太っても……」
「じゃあ確かめてみる?」
桜のその言葉に少しでもムラムラした自分をりんねは殴りたくなった。大丈夫だ、自分は禁欲には慣れている。確認するのも、場所は決まっている、手首だ。真宮桜は左手をおずおずとりんねの前に差し出しているのだから。
りんねは恐る恐るといった風に桜の手首を掴む。人差し指と親指が一周半はするのではないだろうかという桜の手首は自分の手首と比べるのがおこがましいくらいに細かった。
「……十分細いと思うが」
「六道くんは優しいんだね」
自分は本音を言ったのであって断じて優しさではなかった。しかし桜は目の前で「お腹にも肉ついちゃったしなー」なんて呟いている。「ほら」なんてお腹を突き出してくるのだから余計にたちが悪いと思った。その腹をおれは触ってもいいのか。いくら信用されているとは言っても無防備すぎなんじゃないだろうか。
「……なら」
「どうしたの?」
「確認、したいから、抱きしめても、いいか」
「……確認のためだけじゃなくていつでもしていいのに」

もやしとニラの炒め物はすっかり冷めてしまった。



131208



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