るーみく | ナノ



ほんの出来心だった。浄霊帰りに歩いていた道に綺麗な花が咲いていた。純白で可憐だがどこか寂しげなその花はりんねにとって不思議な魅力を感じさせた。その花はりんねの大切な人を連想させ、思わず摘んできてしまった。思えばどうしてそんな行動をとってしまったのかわからない。出来心だったと言うしかなかった。
摘んだはいいものの、この花をどうしたものか……。
花はりんねの体温で少し萎れていた。生けようにも花瓶など小洒落たものを持っていないりんねにはどうすることも出来ず、ただ花が萎れていくのを見ていることしか出来なかった。

「六道くーん」
「真宮桜」
「あれ、どうしたの?その花」

りんねにとって桜がクラブ棟にやってくることはいつものことだったが、桜にとってはりんねが生花を目の前にして悩んでいるのはいつものことではなかった。りんねはまさか桜のことを思い出して摘んできたなど言えず口ごもる。

「萎れてきてるね、鷺草」
「鷺草?」
「その花の名前だよ、六道くん」

知らずに摘んできたの?と桜は不思議そうに尋ねる。りんねは自分の無知が少し恥ずかしくなり、少し頬を赤らめる。

「道で見かけて綺麗だと思ったからな……名前は知らなかった」
「そうなんだ。確かに綺麗だよね、鷺草。本当に小さな鷺が羽を広げたみたいで。……ねえ、六道くん知ってる?鷺はね、一生一対を守る鳥なんだって」
「一生一対?」
「夫婦になったら死ぬまで一緒ってことだよ」

桜がいつになく真面目な表情で言うので、りんねは戸惑ってしまった。

「それは……ロマンチックだな」

せいぜいそう口に出すのが精一杯で。桜にもそれが伝わったのだろう、りんねの言葉を聞くやいなや吹き出した。

「六道くん、どう返事したらいいかわからないって顔してるよ。ごめんね、変な話して」

そう言う桜は笑っていたが、少し寂しげであると思った。そういうところがこの花に似ているとりんねは思う。

「せっかくだし気休めにしかならないと思うけど、ペットボトルにでもそれ生けようか?」

ペットボトルとってくるね、と立ち上がろうとした桜の手首をりんねは掴んで阻止する。桜は不思議そうな顔をしていた。

「六道くん?どうしたの?」
「え、あ…………すまん、真宮桜」
「……別にいーよ」

肝心な時に何も言葉が出ない自分を殴りたかった。別にいーよと言った桜はやはり寂しげな表情で、りんねはどうしたらいいかわからなくなった。桜の手首は細く、脈がどくんどくんと打っているのを感じた。暖かい彼女は確かに今生きている。

「真宮桜は、今ここで……生きているんだな」
「どうしたの?急に……」
「真宮桜が今ここで、おれの隣で生きていてくれるのが嬉しいと思ったんだ。死んだら、こうやって触ることも出来ないし。それに……」
「六道くん」

名前を呼ばれ顔をあげた。桜の顔を見たらほのかに赤い気がする。あまり感情を表に出さない彼女だから珍しい。りんねはぼんやりと桜を見つめた。

「鷺草、探しに行こうよ。この花もひとつじゃさみしいだろうし、ちゃんと夫婦で生けてあげなきゃ」
「……そうだな」

2人の手と手は自然に絡まり、クラブ棟を出た後も離れることはなかった。その後、ペットボトルに生けられた鷺草2つは、ひとつだった時よりもお互いみずみずしくなっているような気がした。りんねは鷺草をつつきながらうとうととまどろむ。夢の中では桜がお下げ髪を揺らしながら笑っていた。


130817



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -