るーみく | ナノ



庭には花水木が植えてある。5月11日は丁度開花の時期辺りなのでたくさんの花水木が咲いてとても綺麗だ。翼はその中からひとつだけ、蕾を見つけた。

(このつぼみが咲いたら、真宮さんにあげよう)

翼は心に住まう愛しい人のことを思い浮かべた。5月の爽やかな風に花水木の葉がサワサワと揺れる。
薄紅色の花弁は彼女の名前の花の色で、翼はほう、とため息をついた。とても綺麗だ。
最近の彼女は輪をかけて綺麗になったと思う。女性は恋をすると綺麗になると言うけれど、翼はその通りだと思った。彼女のことが好きで好きでたまらない気持ちに偽りはないが、彼女が自分でない誰かに恋をしていることは心のどこかで理解していた。しかし認めたくはなかった。彼女が誰に恋をしているのかも重々理解しているくせに、自分以外の誰かと言ってしまうのも、認めたくないがゆえだった。

(あ、真宮さん)

そんなことを考えながら歩いていると前に彼女を見つけた。声をかけようと足を踏み出す。彼女の隣には赤毛の死神がいた。
やり場のない手をぎゅっと握りしめる。彼女はとても楽しそうに笑う。翼はそんな彼女の笑顔が好きだったけれど、彼女は自分にはそんな笑顔を見せてはくれなかった。翼の好きな笑顔にさせるのはいつも赤毛の死神だった。ひらりと翼の周りを蝶々が舞う。
翼は彼女のそんな笑顔を壊したくなかった。自分の気持ちはきっと重すぎて彼女にぶつけたらきっと沈んでしまう。翼はそんなことを望んでいなかった。翼は真宮桜の幸せを望んでいた。
目の前の2人がぎこちなく、しかし幸せそうに指を絡めるのを翼は目を細めながら見つめた。何故か胸のモヤモヤがストンと落ちた気がした。
自分のこの我慢がいつか実を結ぶ時が来るのだろうか。自分が我慢することで彼女が笑顔で、そして好きな人と結ばれるのなら本望だと翼は思った。それこそ我慢が実を結ぶことだと思った。
暖かい風が吹き、花水木の香りが翼を囲う。翼は胸いっぱいに息を吸い込む。

(真宮さん、おれと出会ってくれてありがとう。そして、真宮さんが好きな人と出会えてくれてありがとう)

花水木の花弁がひとひら散った。



130511
出会えてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。



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